最新記事

ウクライナ情勢

民間企業の次は国際機関 IMFなど「ロシア排除」に動き出す

2022年3月10日(木)16時00分
モスクワのロシア中央銀行

第2次世界大戦の荒廃の中、米国とその同盟国は戦後の世界的な経済秩序を司る国際機関を創設し、欧州の再建、貧困対策、貿易摩擦の平和的解決などに注力してきた。写真はモスクワのロシア中銀で2021年3月撮影(2022年 ロイター/Maxim Shemetov)

第2次世界大戦の荒廃の中、米国とその同盟国は戦後の世界的な経済秩序を司る国際機関を創設し、欧州の再建、貧困対策、貿易摩擦の平和的解決などに注力してきた。

しかし欧州で1945年以来となる大規模な戦闘が勃発し、西側諸国の間では、ウクライナ侵攻への懲罰措置としてロシアを国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)、世界銀行といった国際機関から排除する計画が俎上に上っている。

計画が実現すれば、旧共産圏諸国の国際機関への取り込みは排斥よりも良い結果を生むという、数十年来の信条が覆される。しかし政府関係者や外交関係者の間では、ロシアのウクライナにおける振る舞いはあまりにも忌まわしく、ロシア政府にはもはや世界の経済的発展に手を貸す資格はないとの声が上がっている。

平和な世界のために設計され、戦闘当事者を罰する明確な仕組みを持たない主要国際機関からロシアを排除、あるいはその資格を停止しようとする動きをまとめた。

<IMF>

欧州連合(EU)当局者の間ではIMFにおけるロシアの影響力をそぐ方法が検討されている。旧ソ連はIMFの創設に貢献したが、第2次世界大戦後に加盟を見送った。

ロシアとウクライナは旧ソ連が崩壊した翌年の1992年にIMFに加盟した。

IMF協定には武力紛争に関する規定はない。ロシアを除名するには、ロシアが準備資産や国際収支など必要な経済データを提出しないなど、協定に違反したと認定される必要がある。

違反が見つかり、是正されない場合、「合理的な期間」を経て、IMFの議決権の70%を持つ加盟国の賛成でロシアの議決権を停止することができる。さらに「合理的な期間」を経て、85%の議決権を持つ加盟国の賛成でロシアをIMFから除名させることができる。

より象徴的だが簡単な方法としては、ロシアのアレクセイ・モジーン氏からIMF理事長という名誉職を剥奪するという手段がある。この肩書は非公式なもので、実権はない。

<WTO>

米国と欧州の同盟国は、ロシアへの最恵国待遇(MFN)の適用停止も検討している。MFNの適用が停止されれば、加盟国への適用を大幅に上回る関税を課すことが可能になる。

米国の法律では、ロシアへのMFN適用を停止するには議会での法律制定が必要。ただ、11日に採決が予定されている予算案とロシアのエネルギー輸入を禁止する法案では、ロシアとの間の恒久的で正常な貿易関係を取り消す規定が除外されている。一方、この法案はロシアのWTO加盟の見直しを認めている。

ロシアは19年間にわたる交渉を経て2012年にWTOに加盟した。

WTOには具体的な除名手続きがなく、ロシアの排除は極めて困難だ。WTOがそうした手続きを設けるには加盟国の3分の2、ロシアの除名には4分の3の賛成がそれぞれ必要となる。ただしWTOは通常164の加盟国の全会一致で決定を下す。

一方、ロシアの同盟国ベラルーシがWTOへの加盟を拒否される可能性はもっと高い。

<世界銀行>

世銀は先に、ウクライナへの侵攻を巡りロシアとベラルーシでの計画にまつわる作業を全面的に停止した。ロシアとウクライナはいずれも1992年に世銀に加盟した。

今回の措置により、2025年までの総額約5億1100万ドルの融資プロジェクトに関するベラルーシへの払い出しと、新型コロナウイルス緊急対応に関するベラルーシへの融資コミットメントが停止される。

世銀による最後のロシア向け融資は、2014年にロシアがクリミアを併合する前の13年に承認されている。ただ世銀は21年12月に気象関連プロジェクト向けに360万ドルを支出している。

ロシアが世銀協定に盛り込まれている責務を履行しない場合、出資国は過半数の賛成をもってロシアの加盟を停止することが可能で、1年以内にこの措置が撤回されなければ自動的に加盟が解除される。

<欧州復興開発銀行>

東欧の旧共産圏諸国を支援するために1991年に発足した欧州復興開発銀行(EBRD)は1日、理事会が「多数の」賛成により、ロシアとベラルーシの融資利用を無期限に停止する提案を決議したと発表した。

EBRDの総務会は今後30日の間にこの提案について採決を行う。承認には3分の2以上の賛成が必要だ。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・ウクライナに「タンクマン」現る 生身でロシア軍の車列に立ち向かう
・ウクライナ侵攻の展望 「米ロ衝突」の現実味と「新・核戦争」計画の中身


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中