最新記事

賃金

フリーランス保護法で収入は上がるのか──EU報告

REFORMING GIG WORK

2022年3月23日(水)11時55分
ローラ・コーパー
ギグワーカー

ギグワーカーは仕事をすぐに得られるが収入や待遇に問題 MIKE DOTTA/SHUTTERSTOCK

<宅配サービスやIT系エンジニアなどギグワーカーを「事実上の被雇用者」とするEUの新法が発表された。自由な働き方を望む人たちにとって恩恵となるのか>

※本誌3月29日号「賃金停滞ニッポン」特集では、世界から大きく取り残され、何十年も給料が上がらない日本の「根本的原因と対処法」に迫る。一方、賃金をめぐっては他国でも「攻防戦」が続いており、日本にも何らかのヒントとなるかもしれない。

◇ ◇ ◇

主としてネットを介して単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」の大半は、発注元と実質上の雇用関係がある従業員であり、しかるべき保護が必要だ――そんな内容の法案を、昨年末に欧州委員会(EUの行政機関)が発表した。

対象となる人は、EU圏内で最大410万人に達するという。

この法案(欧州議会の審議・承認を経て、各国で法制化される必要がある)によれば、以下の5つの基準のうち2つ以上を満たす場合、発注元の企業はギグワーカーの「雇用主」と見なされる。

「報酬を設定している」「服装や行動などのルールを設定している」「労働状況を電子的な手段で監視している」「労働時間や業務内容の選択の自由を制限している」「第三者のための就労を禁止している」の5つだ。

そして発注元が「雇用主」と認定された場合、ギグワーカーは当該企業の「従業員」ということになり、法的な最低賃金の支給や年金、有給休暇、失業保険、病休などの権利を享受できるとされる。

「こういう仕事はかけがえのないものだ」と、欧州委員(雇用・社会権担当)のニコラ・シュミットは言う。「こうした働き方を禁じたり、その成長を止めるつもりはない。ただ、新しい働き方が劣悪で危険なものにならないことを望んでいる」

ギグワーカーの権利と発注元企業の責任は、現行の法制では明らかにされていない。

だが新型コロナウイルスのパンデミックもあって、料理の宅配サービスを中心にギグワーカーへの需要は激増。おかげで何百万もの人が職にありつけたのは事実だ。

しかし現場の人たちからは、必要経費や待機時間を考慮すると、稼ぎは最低賃金にも満たないという不満の声が上がる。

急成長に追い付かない現実

代表的な発注元企業である米ウーバーの広報担当者は、現在も労働条件の改善に尽力しているとしつつ、EUの法案が「大勢の人の仕事をリスクにさらし、このパンデミック下で多くの小規模事業主に打撃をもたらし、ヨーロッパ中の消費者が頼りにしている重要なサービスの存続を危うくする」ことに懸念を表明。

いかなる規制も「ドライバーや配達員が最も望んでいるはずの(働き方の)柔軟性を今後も維持しながら、発注元のプラットフォーム企業が働く人の権利保護や待遇改善に取り組めるようにすべきだ」と述べた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米国務長官、今週のウクライナ和平交渉への出席取りや

ワールド

ゼレンスキー氏、停戦後に「ロシアと協議の用意」 短

ビジネス

中銀の独立性と信頼性維持は不可欠=IMFチーフエコ

ワールド

イスラエル、ガザ攻撃強化 封鎖でポリオ予防接種停止
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「利下げ」は悪手で逆効果
  • 4
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 5
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 7
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中