円債金利、マイナス政策導入以来の高水準 日銀金融正常化の思惑消えず
円債金利が、日銀がマイナス金利政策導入を決めた2016年1月以来の高水準に上昇した。2017年6月撮影(2022年 ロイター/Thomas White)
円債金利が、日銀がマイナス金利政策導入を決めた2016年1月以来の高水準に上昇した。日本の消費者物価指数の伸び率は依然2%に届いていないものの、世界的にインフレが進み、各国中銀が利上げに動く中で、日銀もいずれ金融正常化に向かうのではないかとの思惑が市場でくすぶっている。
「完全否定」でも消えなかった思惑
日銀の金融正常化に関心が高まった1月17─18日の金融政策決定会合。黒田東彦総裁は会見で、物価目標の2%まで遠い状況下で「利上げとか現在の緩和的な金融政策を変更するというようなことは全く考えていない」と言い切った。その後公表された同会合の「主な意見」でも、各政策委員からの早期の正常化提案はみられなかった。
マーケットの思惑はいったん完全否定された形だが、円債金利は再び上昇を始め、31日には、新発10年国債利回り(長期金利)が一時0.185%と、日銀がマイナス金利政策の導入を決めた16年1月29日以来の高水準を付けた。同じように日銀の金融正常化を巡る思惑が強まった昨年春の「点検」時を上回る水準だ。
円金利上昇の背景には、海外金利の上昇がある。株安進行にも関わらず、今後の金融政策がタカ派的になる可能性を否定しなかったパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の会見(26日)を受けて足元のフェデラル・ファンド(FF)金利先物市場は年内に約5回の利上げが実施されるとの見方を織り込んだ。
ただ、米金利上昇は一服しつつある。前週末28日の米10年債利回りは4bp低下の1.80%。31日のアジア時間に入っても1.78%台と低下している。米金利に連動しやすい円債金利としては珍しい「逆行現象」の要因には、日銀の金融正常化への警戒感があるという。
SMBC日興証券のチーフ金利ストラテジスト、森田長太郎氏は、先週後半から円債が米国債に対し再びアンダーパフォームし始めたと指摘。「需給要因もあるかもしれないが、市場は日銀が最終的にはグローバルな環境変化に抗しきれないとみている面もあるようだ」との見方を示す。
消えないマイナス金利導入時の「記憶」
「黒田総裁が強く否定すれば否定するほど、市場は疑心暗鬼になってしまう」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア・マーケットエコノミスト、六車治美氏は指摘する。日銀の「完全否定」にもかかわらず、市場で思惑がくすぶり続けるのは、マイナス金利導入時の「記憶」があるためだという。
16年1月21日の参院決算委員会で、黒田総裁は「現時点ではマイナス金利政策を具体的には考えているということはない」と発言。しかし、日銀はその8日後にマイナス金利導入を決定した。その後の黒田総裁の国会答弁にあるように、経済や物価の情勢は毎回の決定会合で検討するものであり、「変節」とは言えないが、市場にはサプライズの印象が残ってしまった。