香港金融界が人材不足 厳格な「ゼロコロナ」対策に嫌気、欧米の駐在員数千人離脱か
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他国から香港に駐在する専門職のうち、すでに香港を離れた、あるいは帰国を予定している人は数百人、いや恐らく数千人を数える。これによって、世界有数の金融ハブという香港の地位は脅かされている。写真は香港で2020年6月撮影(2022年 ロイター/Tyrone Siu)
タニア・シブリーさんは昨年末、金融サービス専門の弁護士という高給を得られる仕事を捨て、香港を離れてオーストラリアに帰国した。香港の厳格な新型コロナウイルス感染対策から一刻も早く逃れたかったからだ。
シブリーさんは、香港で過ごした5年間は楽しかったと話す。他国から香港に駐在する専門職のうち、すでに香港を離れた、あるいは帰国を予定している人はシブリーさんの他にも数百人、いや恐らく数千人を数える。これによって、世界有数の金融ハブという香港の地位は脅かされている。
「ホテル隔離が導入されて、人の移動がとにかく面倒になった。(オーストラリアの)自宅や両親とも近く、移動のしやすさが香港で働く大きな魅力だったのに。でも、あれほど長く子ども連れでホテルに隔離されるのは耐えられない」とシブリーさん。「誰もが規制は緩和されると思っていた。状況は改善される、そう長くは続かない、と」
香港では人口740万人に対し、新型コロナ感染者は約1万3千人にとどまっており、世界の大半の地域に比べて大幅に少ない。だが香港は中国の施政下にあり、ウイルスとの共存を前提としない中央政府の「ゼロコロナ」政策に従っている。
香港は2年間、厳しい検疫体制を実施し、昨年には世界でも最も厳格なレベルの入域ルールを導入した。市内に戻れるのは香港住民のみ、ワクチン接種状況に関わらず、ほとんどの国からの入域者に最長3週間のホテル隔離が義務付けられ、ホテル滞在費用は旅行者自身の負担となる。
しかし、「ゼロコロナ」達成のメドは立たない。23日、香港では140人の新規感染者が報告された。当局が入域規制を緩和する動きは見られない。結果として、香港離脱を考える他国からの駐在者は増加しており、ヘッドハンティング企業や業界幹部がロイターに語ったところでは、グローバル銀行、資産運用会社、企業向け法律事務所では、年明け最初の3カ月に年次賞与が支給された時点で多くのスタッフが離脱してしまう事態を迎えているという。
資本市場を専門とするインベストメントバンカーは、匿名を条件に取材に応じ、「香港では今年の夏、多くの人が音を上げて、『これではやっていけない』と心に決めることになる」と語った。「現時点では、バンカーならばシンガポールを拠点にする方がはるかに好条件だ。旅行もできるし、もし香港に来る必要があるなら、年に1度か2度、じっと隔離に耐えれば済むことだ」