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米農家、土壌の健康を回復し炭素を吸収する「カバークロップ」に着目

2022年1月10日(月)10時33分

専門家によると、官民の保全プログラムが拡大すれば、作付けの拡大は加速し、種苗・肥料企業に追い風が吹くだろう。もっとも企業は、農家がどのカバークロップを植えるか予想するのは難しいとしている。

バイエル、食品のランドオレークス、穀物商社カーギルなどは過去2年間に、カバークロップを植えて炭素を吸収し、土地の耕作を減らした農家に報酬を支払う「カーボンファーミング」計画を始動した。

米連邦政府は何年も前から保全プログラムに基づき、氾濫原や野生動物生息地など環境保護の必要性が高い土地の耕作を控えた農家に対価を支払っている。バイデン政権はこれをさらに拡大する計画だ。

動機

カバークロップの作付け拡大はこれまでのところ、土地保全に熱心な限られた数の農家が引っ張ってきた。土壌の肥沃化や治水など、炭素吸収以外の目的を追求した結果だ。保全プログラムによる支払いでは、種や労働のコストをほとんど賄えない。

「やりたいと思わなければできない」と農家のマコーミックさん。この6年でカバークロップの作付けを10倍以上に増やしており、バイエルから支払いを受けたのは昨秋が初めてだ。

「私がやっている事に対して1エーカー当たりいくらかのお金をくれるなら、受け取る。だがその報酬のためだけなら、やらないだろう。報酬が十分だとは思わない」。カバークロップが土壌の改善につながり、土地が干ばつに耐えやすくなることが一番の動機だという。

専門家の間では、農閑期にカバークロップの作付けを増やせば、収入の柱である主要作物の作付け期間が制限されかねない、との懸念も出ている。カバークロップの種が不足する恐れもある。作付面積が広がれば農業用化学物質の使用量が増加するとも指摘されている。

それでも環境専門家は、土地を半年間休ませて莫大な炭素吸収の機会を逃す従来型農業に比べれば、カバークロップは進歩だと言う。

フード・アンド・ウォーター・ウォッチの調査ディレクター、アマンダ・スターバック氏は「カバークロップはオーガニック・再生農業システムの非常に重要な一部になり得る。ただ、すべては実行の仕方次第だ」と述べた。

(Karl Plume記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

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