「ソニーEVは人が乗れる巨大aibo」 自動車の再定義に既存メーカーも注視
アナリストとして自動車業界の変遷を見てきたナカニシ自動車産業リサーチ代表の中西孝樹氏は、ソニーが売ろうとしているのは車ではなく、人の移動に関連したサービスを統合するMaaS(マース:Mobility as a Service)に近いものと指摘する。
「(ネットワークに)接続された端末が移動体として、それは大きなアイボのようなものかもしれないが、サービスを提供する。ソニーはあの試作車を売りたいのではなく、(エンターテイメントの提供などで、新たな)顧客体験価値を作り、新しい課金システムでビジネスとして成立させていくのではないか」と、中西氏は話す。
市場調査会社の米マーケッツアンドマーケッツは、マースの市場規模が昨年の約30億ドルから2030年までに400億ドルに拡大すると予測している。
ダイソンの蹉跌
異業種からの参入組がEVの生産自体で成功するのは容易ではない。掃除機などの家電で培ったモーター技術で挑んだダイソンは、2年かけて研究開発を重ねた結果、2019年に断念することを発表した。創業者のジェームス・ダイソン氏は「開発過程を通して多大な努力を重ねたが、採算が取れるようにする方法を見い出せない」と社内に説明した。
日本の大手電機メーカーの関係者は「(EV車を)作れないことはないが、各国で異なる安全に関する多くの法律を、新規参入組が自ら、すべてをクリアしていくのは相当困難だ」と語る。
ソニーはどう車両を開発・生産するのかまだ明らかにしていない。しかし、狙いが自動車生産そのものではないとの見方は中西氏以外の専門家からも挙がっており、迎え撃つ自動車メーカーには競合することの不安だけでなく、期待ももたらしているようだ。
EV市場動向に詳しいデロイトトーマツグループのディレクター、柴田信宏氏は「異業種ゆえに、既存の自動車の概念にとらわれない、全く新しい付加価値のある車を出してくるかもしれないという興味が、自動車業界内にはある」と語る。「成熟した自動車市場をブレークスルーする期待値もあるということで、既存メーカーは注視しているのだろう」