最新記事

アメリカ経済

展望2022年、米企業利益見通しはインフレとオミクロン株で不透明感増大

2021年12月25日(土)13時14分
ニューヨーク証券取引所

今年は非常に目覚ましかった米企業利益の伸びが、来年は鈍化する見通しだ。ニューヨーク証券取引所で3月29日撮影(2021年 ロイター/Brendan McDermid)

今年は非常に目覚ましかった米企業利益の伸びが、来年は鈍化する見通しだ。物価上昇と新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」の感染急拡大により、先行き不透明感が強まっている。

S&P総合500種は年間で約24%上昇する基調にあり、株価収益率(PER)は長期平均を大きく上回っているため、米国株が買われ過ぎではないかとの懸念が浮上しつつある。

リフィニティブのIBESデータに基づけば、S&P総合500種企業は今年、パンデミックに伴う景気後退とロックダウン(都市封鎖)の痛手から見事に立ち直り、増益率は50%に達するとみられる。だが、来年は8%前後の増益にとどまりそうだ。

ここ数週間でオミクロン株があっという間に広がるとともに、株価は下落してきた。それでも今のところ、来年の企業利益に関するウォール街のコンセンサスには、ほとんど変化がない。

パー・スターリング・キャピタル・マネジメントのディレクター、ロバート・フィップス氏は「われわれが目にしそうな光景が、企業価値の評価倍率の増大から縮小に切り替わる局面に入ろうとしている」と述べ、企業利益は増えても株価がそれに追随せず、投資家が得られるリターンが乏しくなるとの見方を示した。

リフィニティブ・データストリームによると、S&P総合500種企業の予想利益に基づくPERは現在21.5倍、長期平均は15.5倍だ。

これまで米国株のバリュエーションを支えてきた重要な要因の1つは超低金利だが、米連邦準備理事会(FRB)がインフレ懸念を理由によりタカ派姿勢に転じている今、情勢は変化する公算が大きい、とフィップス氏は話す。

金利が上がれば企業と消費者の借り入れコストが増え、特にハイテクなどの成長株の株価が圧迫される。FRBは先週、労働市場の引き締まりと経済活動の強まりを理由に、債券買い入れ縮小(テーパリング)の終了を来年3月に早め、来年中に3回の利上げに動く布石を打った。FRBの来年の物価上昇率見通しは9月時点の2.2%から2.6%に切り上がっている。

同時に各企業はまだ、パンデミックに起因する供給網の混乱との悪戦苦闘を続けており、オミクロン株の世界的な拡大によってこの闘いはむしろ新しく、より厳しい局面に突入したようだ。

年末年始を控え、一部の国では感染拡大が加速してさまざまな規制措置が復活する可能性が大きくなってきた。ロイターの集計では、米国の新型コロナウイルス新規感染者数も今月初め以降で50%増加した。

ウェルズ・ファーゴ・セキュリティーズの米国株戦略責任者、クリストファー・ハーベイ氏は「この先、悪化し得る要素が多い」と語る。同社は来年夏までに米国株が10%前後下落する可能性が増してきたとみている。

米企業が今年、利益率の改善基調を維持できたのは経費を節減するとともに、販売価格引き上げで顧客にコストを転嫁できたからだった。だが、足元の幾つかのリスクが来年の米企業利益見通しや実績にどれだけ影響を及ぼすかは、まだよく分からない。

リフィニティブのデータを見ると、S&P総合500種企業の来年の増益率見通しは今月初めが8.0%、17日時点が8.3%だった。

ジ・アーニングズ・スカウトのニック・レイチ最高経営責任者(CEO)は「12月になって利益見通しは上振れている。つまりオミクロン株は、今の段階で見通しに織り込まれてさえいない」と指摘した。

(Caroline Valetkevitch記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中