最新記事

中国

習近平に愛され捨てられたジャック・マー 転落劇の内幕

2021年11月8日(月)11時18分
ジャック・マー

馬雲(ジャック・マー)氏にとって、1年前の11月5日は栄光の時となるはずだった。写真は2019年5月、パリを訪れたマー氏(2021年 ロイター/Charles Platiau)

馬雲(ジャック・マー)氏にとって、1年前の11月5日は栄光の時となるはずだった。自身が興した中国電子商取引大手アリババグループ傘下の金融企業アント・グループが370億ドル規模の上場を果たす予定だったからだ。しかし中国政府は、太陽に近づいた馬氏の翼を突如もぎ取り、その帝国を締め付けた。

馬氏は今、欧州を訪れ園芸分野に手を出すなどして、ひっそりと国際舞台に復活しようとしている。

国家首脳並みの隆盛を極めた2017年の姿からは、様変わりだ。馬氏はこの年ニューヨークへ飛び、米大統領就任を2日後に控えたトランプ氏と、トランプタワーで2者会談を行った。そして米国に100万人の雇用を創出すると約束した。

この派手な外遊が、中国政府を憤らせることになった。政府がこの会談と、雇用に関する約束について知ったのは、一般人と同じく、馬氏がトランプタワーで記者団の質疑に応じる様子がテレビ放映された時だった。アリババに近い関係者4人と中国政府筋1人が明らかにした。

アリババの関係者2人によると、同社はこの後政府高官らから、事前の承認なしに馬氏がトランプ氏と会ったことを政府は不快に思っている、と告げられた。

トランプ氏は大統領選挙戦中、中国が米国の雇用喪失を招いたとの批判を展開していた。馬氏との1月9日の会談は、米中間の緊張が高まっていた最中のことだった。

アリババ関係者4人は、この会談をきっかけに馬氏と中国政府の関係が暗転したとみる。

投資家は今、なんとか馬氏の消息を知りたいと思っている。10月に馬氏がスペインのマヨルカ島に姿を現した、との報道が流れただけで、アリババ株の時価総額は420億ドルも増えた。同氏の外遊が伝えられたのは1年ぶりだった。

かつて政府の寵愛を受けた馬氏の転落ぶりは、習近平国家主席の下で中国がいかに変容したかを物語っている。前代未聞の3期目に突入する習氏は今、中国屈指の革新的企業のいくつかに対して締め付けを強めている。

ロイターは馬氏のメディア対応を行う慈善団体、中国国務院報道弁公室、中国外務省、トランプ氏の広報担当者にコメントを求めたが、いずれも応じなかった。

当然の標的

中国当局がアリババの取り締まりに乗り出したのは、馬氏が昨年10月、技術革新を阻んでいると金融監督当局を批判する演説を行った後だった。アント・グループは、土壇場になって上場中止を余儀なくされた。

政府の締め付けはハイテク、不動産、ゲーム、教育、暗号資産、金融と、民間セクター全般へと広がった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平案、ロシアは現実的なものなら検討=外

ワールド

ポーランドの新米基地、核の危険性高める=ロシア外務

ビジネス

英公的部門純借り入れ、10月は174億ポンド 予想

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中