ビットコイン法定通貨にしたエルサルバドル、国内の貧富格差映し出す
エルサルバドルの首都・サンサルバドル。ベルティラ・ガルシアさん(65)は40年も前からこの街の一角に露店を構え、菓子を売ってきた。写真はサンサルバドルでブケレ大統領やビットコインの法定通貨化に反対するデモに参加する男性(2021年 ロイター/Jose Cabezas)
エルサルバドルの首都・サンサルバドル。ベルティラ・ガルシアさん(65)は40年も前からこの街の一角に露店を構え、菓子を売ってきた。国は9月、暗号資産(仮想通貨)ビットコインを法定通貨にしたが、ガルシアさんは現金以外で代金を受け取ったことはないし、今後もそのつもりは一切ない。
エルサルバドルの動きは、世界初の画期的な政策対応だった。だが、多くの一般市民は自分の生活にどう降りかかってくるのか、理解しあぐねている。
「さっぱり分からない」と語るガルシアさん。9月7日に新法が施行されて以来、客からビットコインで支払いたいと言われたことはないという。
スマートフォンを持っていないガルシアさんは、政府が導入した電子財布「CHIVO(チボ)」をダウンロードすることが、そもそもできない。
先端技術に通じたブケレ大統領(40)は20日にツイートで、これまでに約640万人の国民の4分の1がチボを使い始めたことを明らかにした。
ブケレ氏は、ビットコインの法定通貨化によって国民は送金手数料を年間約4億ドル節約できると説明する。しかし、専門家はデータ保護やビットコイン相場の急変動などの点に懸念があると指摘。特に高齢者が、置き去りにされる恐れがあると分析している。
太平洋に面した海岸沿いの地域では、約3年前から観光客のほか、レストランやホテルの若いオーナーがビットコインを使っている。サーフィンの街、エル・ゾンテは「ビットコイン・ビーチ」として知られ、「ビットコイン受け付けます」のデジタル表示が見られる。
その他の地域でも、政府が設置したビットコイン自動支払い機の前に長い列ができている所がある。ただ、中には、チボに登録した人に給付される30ドル相当のビットコインを現金化するためだけに並ぶ人々もいるようだ。
実験台
ブケレ大統領は、ビットコインの採用によって米ドルへの依存が減り、銀行口座を持っていない人々も金融サービスにアクセスしやすくなって、経済の発展につながると訴えてきた。
だが、高齢者や農村部市民の間で、チボを普及させるのは難しいかもしれない。農村部は自動支払い機やインターネットアクセスが少ない上、現金文化が根付いている。
世界銀行によると、エルサルバドル国民の半分はインターネットにつながっていない。
最貧困層やスマホを持たない人々、デジタルに疎い人々が、ビットコインに飛びつくのも難しい。