最新記事

金融

ビットコイン法定通貨にしたエルサルバドル、国内の貧富格差映し出す

2021年10月4日(月)11時57分

ウォータールー大学(カナダ)のジャンポール・ラム准教授は、エルサルバドルのビットコイン法定通貨化を「他国が見守る小さな室内実験」になぞらえる。

ブケレ氏は、出稼ぎのために外国に住む国民からの送金手数料が節約できる利点も強調している。世銀によると、主に米国からのこうした送金は昨年、エルサルバドルの国内総生産(GDP)の25%余りに上った。

北東部モラサン県の農村部に住むイスラエル・マルケスさん(53)は、米国に住む兄弟や友人から年に数回、100ドルの送金があるが、ビットコインを試すのは気が進まない。

「チボをダウンロードして(給付金の)30ドルだけ使い、あとはチボをお払い箱にするという人々もいるが、自分はそれさえしたくない」という。

セントラル・アメリカン大学が今年8月に1281人を対象にした調査では、エルサルバドル国民の間でビットコインへの不信感が強いことが示された。10人中9人はビットコインを明確に理解していないと答え、8人は利用に際して「信用できない」、もしくは「ほとんど信用できない」とした。

9月15日には「ビットコインにノーを」の横断幕を掲げた街頭デモも実施され、自動支払機に火が点けられる騒ぎとなった。

合点がいかない

小規模なコーヒー農園を営むマルケスさんが、最も心配するのはビットコインの乱高下ぶりだ。「どうしてあんなに値上がりするのか。合点がいかない」──。

米国の汚職監視組織、グローバル・ファイナンシャル・インテグリティのジュリア・ヤンスラ氏は、先端技術に詳しいエルサルバドル国民でさえ「事実上、一夜にして」ビットコインが法定通貨に採用されたことには、疑念を抱いて当然だと言う。

拙速に採用したため、政府は規制の枠組みを整える時間がなく、チボに登録する際に個人が入力したデータを保護する仕組みも間に合わなかったはずだとヤンスラ氏は指摘。「この情報はどのように保管され、だれがアクセスすることができ、何に使われ得るのか」と疑問を呈した。

人々がどのくらいビットコインを日常使いするようになるかは、究極的にはビットコインの変動率が縮小するかどうか次第であり、エルサルバドル政府には手の打ちようがない、との指摘もある。

(Anna-Catherine Brigida記者、Anastasia Moloney記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

カナダGDP、10月は前月比-0.3% 米関税影響

ビジネス

円安進行、「物価上振れにつながりやすい」と何人かの

ビジネス

企業向けサービス価格、11月は前年比2.7%上昇 

ワールド

中国、インドをWTO提訴 太陽光備品やIT製品巡り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中