イギリス、「移民頼み経済」から25年ぶり転換か EU離脱で試練の冬
英国は過去25年間、移民労働者頼みの経済モデルを続けてきた。それを欧州連合(EU)離脱とコロナ禍が覆そうとしている。ロンドンで2020年12月撮影(2021年 ロイター/Simon Dawson)
英国は過去25年間、移民労働者頼みの経済モデルを続けてきた。それを欧州連合(EU)離脱とコロナ禍が覆そうとしている。人手不足、賃上げ要求、物価上昇の三拍子がそろい、1970年代型の「不満の冬」がしのび寄っているのだ。
英国は突如として、外国から輸入した安い労働力への「中毒」を断ち切らざるを得なくなった。
経済モデルの転換というジョンソン首相の「実験」によって、ただでさえ世界中でひっ迫している供給網への負荷は、さらに拡大。豚肉から鶏肉、医薬品から牛乳まで、あらゆるものに影響が及んだ。
いきおい賃金は上がり、物価にも跳ね返るはずだ。
この状況が英国の経済成長、ジョンソン氏の政治的命運、そして英国とEUとの関係に及ぼす長期的な影響は定かでない。
人手不足について問われたジョンソン首相は「野放図な移民受け入れに支えられた低賃金と低い職能という、破綻した古いモデルに戻ることはしない」と述べた。
英国民はブレグジットの是非を問う2016年の国民投票と、ジョンソン氏の保守党が地滑り的勝利を収めた2019年の総選挙で、「変化」に票を投じたのだと同氏は言う。
国民投票の結果が示す通り、低迷している一部労働者の賃金を引き上げなければならないとジョンソン氏は指摘。非公開の会議で財界指導者らに対し、労働者の賃金を引き上げよ、ときっぱり言い渡した。
2016年の国民投票では、ジョンソン氏が率いた「離脱」派が辛勝。この時の中心的メッセージが「(移民への)コントロールを取り戻す」だった。同氏は、後にEUという「雇用破壊装置」から英国を守るとぶち上げた。
ブレグジットは「調整」か
ブレグジットという賭けを、ジョンソンは「調整」として描いてみせる。しかし、労働者不足という実態を賃上げのチャンスのように粉飾しているだけだ、というのが離脱反対派の主張だ。
移民流入制限は、英国の経済政策が約25年ぶりに転換することを意味する。
1989年のベルリンの壁崩壊以降、EUは東側に拡大し、英国その他の欧州主要国は、東欧諸国から何百万人もの移民を受け入れた。そうした国の1つであるポーランドは2004年にEUに加盟した。
流入した移民の数は、把握されていない。英国政府は今年半ば、EU諸国の国籍を持つ住民からの永住申請が600万件を超えたと発表したが、これは2016年に英国が認識していた移民数の2倍以上だ。
ブレグジットを機に、トラック運転手約2万5000人を含む大勢の東欧移民労働者が出国。折しもパンデミックにより約4万件のトラック運転免許試験が中止される事態が重なった。