最新記事

ブレグジット

イギリス、「移民頼み経済」から25年ぶり転換か EU離脱で試練の冬

2021年10月7日(木)17時00分

英国では現在トラック運転手が10万人前後不足している。ガソリンスタンドには列ができ、スーパーでは食品の在庫切れが懸念され、食肉処理や倉庫業務に携わる労働者の不足も不安を引き起こした。

トラック運転手歴27年のクレイグ・ホルネスさんは「賃金を上げる必要がある。だから私たちが配送している物すべて、人々が店で買う物すべての値段も上がるはずだ」と語る。

賃金は既にうなぎ登りだ。求人広告では、重量貨物車両(HGV)1種免許を持つ運転手の年収が7万5000ポンド(10万2500ドル)。人材会社によると、前代未聞の高さとなっている。

不満の冬

中央銀行のイングランド銀行は今年9月に「エネルギーおよび財の価格動向を主因として」消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率が今年末に4%に達すると予想。過去最低水準にある政策金利を引き上げるための論拠が強まったとの見方を示した。

同行は、その証拠として「より広い分野で人材採用が難しくなり、深刻度合いも増している」と説明。「需要が予想以上のスピードで回復したことや、EU労働者の確保が難しくなったことなどの複合的な要因」が背景にあると分析した。

ジョンソン政権の閣僚らは、1970年代の「不満の冬」の再来を繰り返し否定しているばかりか、現在の問題の一因がブレグジットにあることさえ認めていない。70年代の英国は賃上げ要求とインフレ、電力不足の悪循環で不満が爆発し、79年のサッチャー首相誕生へとつながった。

ジョンソン氏は3日、こう述べた。「わが国は長期にわたって賃金上昇率が比較的低く、賃金と生産性は実質的に変化してこなかった。原因は、人と設備への投資を慢性的に怠ってきたことにあり、その結果が賃金の横ばいだ」と語った。

しかし、同氏は移民の減少と賃上げの組み合わせが、どのように賃金と生産性の停滞の解決に結びつくのかを説明しなかった。賃上げはインフレをあおり、その結果として実質賃金を目減りさせる。

物価上昇が英国経済にどんな影響を及ぼすかも不透明だ。英国は消費主導経済であり、欧州や世界に広がる供給網への依存も強めている。

識者からは、英国は「一周回って元に戻った」との声も出る。「欧州の病人」として1970年代にEUの前身に加わったが、離脱したことでまた、袋小路にぶつかるというのだ。EUの多くの政治家がそうした成り行きを望んでいるのは間違いない。

ジョンソン氏がどのようなレガシー(遺産)を残せるかは、この仮説が間違いだったと証明できるかどうか次第だろう。

(Guy Faulconbridge記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

TikTok、米アプリストアで利用できず 禁止措置

ワールド

トルコ北西部スキーリゾートで火災、76人死亡 捜査

ワールド

日米豪印が外相会合、開かれたインド太平洋への協力確

ワールド

次期米国連大使ステファニク氏、米国第一主義強調 指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 7
    トランプ新政権はどうなる? 元側近スティーブ・バノ…
  • 8
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    米アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが大型ロケット打ち…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中