最新記事

金融

テーパリングで意見対立 FRB議長パウエルに総意形成の難題

2021年8月17日(火)11時02分
バーナンキ元議長(右)と話すパウエルFRB議長

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は就任前に理事を約6年間務めたが、その間一度も連邦公開市場委員会(FOMC)で反対票を投じたことはなかった。写真は2019年6月、シカゴでバーナンキ元議長(右)と話すパウエル氏(2021年 ロイター/Ann Saphir)

連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は就任前に理事を約6年間務めたが、その間一度も連邦公開市場委員会(FOMC)で反対票を投じたことはなかった。

だが常に全体案に賛成していたわけではない。パウエル氏は、2007─09年の金融危機に端を発する景気後退が終わった後も巨額の資産購入を続けていたFRBの姿勢を懸念し、他の理事2人と共に当時のバーナンキ議長を説得。議長は恐る恐る2013年に政策方針を転換し、テーパリング(資産購入の縮小)を始めることになった。

パウエル氏は今、当時のバーナンキ氏のようなプレッシャーを感じている。コロナ禍中に開始した特例的な景気刺激策をいつ、どのように縮小するかを問われる重要な岐路に立ち、FOMCメンバーらの総意を形成しなければならないのだ。

月額1200億ドルに上る資産購入のテーパリング開始時期を巡り、ここ数日、FRB高官から相反する意見が絶え間なく発せられている。

FOMCの中核を成す理事は通常、明確な意見表明を控える傾向があるが、最近は理事の間の対立も表面化。水面下で激しく意見を戦わせているのは明らかだ。

パウエル氏自身の見解は、「(雇用・物価の目標に向けた)さらに顕著な前進」というテーパリング開始の条件達成には「まだ距離がある」というものだ。物価上昇は一過性のものである、との考えも繰り返し示してきた。

11日に発表された7月の消費者物価指数(CPI)は、前年同期比でみると上昇率が13年ぶりの高い水準を維持したが、前月比では伸びが鈍化し、インフレが峠を越した暫定的な兆しが見えた。

FRBは何十年間も、ほぼ全員一致で政策を決定することによって信頼を得てきた「コンセンサス」組織だ。2019年に地区連銀総裁3人がFOMCで反対票を投じた例はあるが、過去25年間で反対票を投じた理事は2人だけで、最後の事例は2005年だった。

しかし、前ミネアポリス地区連銀総裁で現在はロチェスター大学教授のナラヤナ・コチャラコタ氏は、「反対をちらつかせるだけでも強い影響力がある」と言う。

コチャラコタ氏によると、FOMCでは全員の賛成を確保するため、投票権を持つメンバーには事前に働きかけがある。「私が仕えた議長らは、反対票が出ないのが望ましいという考え方だった」と述べた。

小さな相違も積もれば

今回の対応次第でパウエル氏の明暗は大きく分かれそうだ。過去の決断の評価が問われるだけでなく、将来もかかっている。

パウエル氏率いるFRBは昨年、金融政策の新戦略を導入した。雇用目標に重点を置き、物価目標の達成には大きな柔軟性を持たせたのだ。パウエル氏は今、不快なほど高くなったインフレ指標を前に、この新戦略を遂行するという難しい課題を突きつけられている。

パウエル氏がどのような政策を採用するか、そしてそれに向けた総意形成に成功するか否かは、バイデン大統領が同氏のFRB議長再任を判断する上での試金石になる可能性もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU加盟国、トランプ次期米政権が新関税発動なら協調

ビジネス

経済対策、事業規模39兆円程度 補正予算の一般会計

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中