テーパリングで意見対立 FRB議長パウエルに総意形成の難題
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は就任前に理事を約6年間務めたが、その間一度も連邦公開市場委員会(FOMC)で反対票を投じたことはなかった。写真は2019年6月、シカゴでバーナンキ元議長(右)と話すパウエル氏(2021年 ロイター/Ann Saphir)
連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は就任前に理事を約6年間務めたが、その間一度も連邦公開市場委員会(FOMC)で反対票を投じたことはなかった。
だが常に全体案に賛成していたわけではない。パウエル氏は、2007─09年の金融危機に端を発する景気後退が終わった後も巨額の資産購入を続けていたFRBの姿勢を懸念し、他の理事2人と共に当時のバーナンキ議長を説得。議長は恐る恐る2013年に政策方針を転換し、テーパリング(資産購入の縮小)を始めることになった。
パウエル氏は今、当時のバーナンキ氏のようなプレッシャーを感じている。コロナ禍中に開始した特例的な景気刺激策をいつ、どのように縮小するかを問われる重要な岐路に立ち、FOMCメンバーらの総意を形成しなければならないのだ。
月額1200億ドルに上る資産購入のテーパリング開始時期を巡り、ここ数日、FRB高官から相反する意見が絶え間なく発せられている。
FOMCの中核を成す理事は通常、明確な意見表明を控える傾向があるが、最近は理事の間の対立も表面化。水面下で激しく意見を戦わせているのは明らかだ。
パウエル氏自身の見解は、「(雇用・物価の目標に向けた)さらに顕著な前進」というテーパリング開始の条件達成には「まだ距離がある」というものだ。物価上昇は一過性のものである、との考えも繰り返し示してきた。
11日に発表された7月の消費者物価指数(CPI)は、前年同期比でみると上昇率が13年ぶりの高い水準を維持したが、前月比では伸びが鈍化し、インフレが峠を越した暫定的な兆しが見えた。
FRBは何十年間も、ほぼ全員一致で政策を決定することによって信頼を得てきた「コンセンサス」組織だ。2019年に地区連銀総裁3人がFOMCで反対票を投じた例はあるが、過去25年間で反対票を投じた理事は2人だけで、最後の事例は2005年だった。
しかし、前ミネアポリス地区連銀総裁で現在はロチェスター大学教授のナラヤナ・コチャラコタ氏は、「反対をちらつかせるだけでも強い影響力がある」と言う。
コチャラコタ氏によると、FOMCでは全員の賛成を確保するため、投票権を持つメンバーには事前に働きかけがある。「私が仕えた議長らは、反対票が出ないのが望ましいという考え方だった」と述べた。
小さな相違も積もれば
今回の対応次第でパウエル氏の明暗は大きく分かれそうだ。過去の決断の評価が問われるだけでなく、将来もかかっている。
パウエル氏率いるFRBは昨年、金融政策の新戦略を導入した。雇用目標に重点を置き、物価目標の達成には大きな柔軟性を持たせたのだ。パウエル氏は今、不快なほど高くなったインフレ指標を前に、この新戦略を遂行するという難しい課題を突きつけられている。
パウエル氏がどのような政策を採用するか、そしてそれに向けた総意形成に成功するか否かは、バイデン大統領が同氏のFRB議長再任を判断する上での試金石になる可能性もある。