最新記事

自動車

インド自動車マーケット、コロナ禍で色あせた外国メーカーの成長期待

2021年6月27日(日)13時37分

コンサルタント会社JATOダイナミクスのラビ・ブハティア氏によると、インド消費者の購買力は依然として西側諸国に比べてはるかに低く、自動車の加重平均価格は米国の3万8000ドルに対してわずか1万ドルにすぎない。

もちろんアナリストが指摘するように、人口1000人当たりの自動車保有が27台程度にとどまるインドは、長期的な潜在成長力を秘めていることに変わりはない。

コンサルタント会社LMCオートモーティブは、昨年235万台とほぼ10年ぶりの水準に落ち込んだインドの自動車販売台数が今年は前年比35%増の317万台に回復すると見込んでいる。

しかし、この数字は世界トップクラスの市場に比べるとかなり見劣りする。LMCの予想では、中国の今年の販売台数は7%増の2200万台、米国は21%増の1350万台に達するという。

中国と米国はいずれもパンデミックが過去の話になったのに対して、インドはまだ感染第2波からの回復途上で、ワクチン接種を完全に終えた人も成人全体の5%程度しかいない。

インドは財政に過剰な圧力が掛かっており、投資適格級の格付けを失う恐れもある。そのため米国や中国は追加経済対策が自動車市場の回復を支えるのと異なり、インドでは追加対策の余地は限られる。

さまざまなハードル

インド市場の見通しが厳しくなった時期と、外国メーカーがより成熟した、利益率の高い市場で電気自動車(EV)や新技術への投資を迫られているタイミングも重なった。

インド自動車工業会(SIAM)によると、フォード、ホンダ、シュコダ・VWは3月31日までの年度に国内販売台数が20-28%減少した。これはマルチ・スズキや現代の2倍以上の落ち込みだ。

またSAIMのデータに基づくと、一部外国メーカーの工場は設備稼働率が30%を割り込んでおり、メーカーの当初目標とはかけ離れた数字になっている。

日産はインドの自動車市場でのシェアを2020年までに5%とする目標を立てていたが、実際には1%以下。ホンダは18年のロイターの取材で、主要なプレーヤーになると明言してそのためには10%のシェアが必要だと説明していたが、シェアは当時の5%から3%に下がり、国内2カ所の工場の1つを閉鎖した。

インドに20億ドル余りを投資したフォードはシェアが2%弱にとどまっている。

LMCのアマール・マスター氏によると、地元メーカーと張り合うには新商品を安定的に投入することが欠かせず、そのために投資を増やす必要がある。

マスター氏は「品揃えの更新が遅れている自動車メーカーは激しい競争に直面し、販売やシェアが落ち込むリスクがより大きくなる」と指摘。フォード、日産、ホンダなどは今のところ次世代の強力な商品が見当たらないと付け加えた。

2人の業界幹部の話では、インドでは輸出政策に透明性を欠いていることや他の規制面のハードルのせいで外国メーカーにとって問題がより複雑になっている。

インドは昨年、フォードやVWなどインド国内での販売よりも輸出が多いメーカーにとって重要な輸出促進策を撤廃。今も新たな制度がまとまっていない。

輸出国はインドとの間で自由貿易協定(FTA)が存在せず、タイやベトナムなどFTAがある国と比べてコスト面で不利にもなる、と業界幹部は解説する。

フォード・インディアの元役員のビナイ・ピパルサニア氏は、「インドは、外国自動車メーカーの規模や投資の拡大を阻むリスクを打ち消す必要がある」と訴えた。

(Aditi Shah記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・インド、新たな変異株「デルタプラス」確認 感染力さらに強く
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中