アメリカのワクチン接種普及の影に「資材囲い込み」 他国メーカー困惑
国内の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)制圧に向けて、米国は自国のワクチン製造企業に対し、必要な国産資材への優先アクセス権を認めた。写真は使用済みモデルナ製ワクチンの容器。ノースダコタ州デイトンの接種会場で4月撮影(2021年 ロイター/Dan Koeck)
国内の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)制圧に向けて、米国は自国のワクチン製造企業に対し、必要な国産資材への優先アクセス権を認めた。
結果として連邦政府は、大量の新型コロナウイルスワクチンの完成品だけでなく、サプライチェーン全体にわたるワクチン原材料や製造設備も抱え込むことになった。主要なサプライヤー数社を含む10数件の契約をロイターが検証し判明した。
米国の措置により、こうした原材料や設備を切実に必要としている一部の国は別の選択肢を必死で探す羽目となり、ワクチン供給が一部の国に偏った状況が一層悪化したと、サプライヤーや他国のワクチン製造企業、さらにはワクチン市場の専門家が取材に明らかにした。
バイデン米大統領は5日、新型コロナワクチンの特許放棄を支持する考えを示し、全世界的なワクチン製造のスピードアップを支援するよう政権に働きかけてきた人々に感銘を与えた。この措置が世界貿易機関(WTO)によって承認されれば、引っ張りだこになっているワクチンを他国企業も製造できるようになる。
だが特許の放棄では、ワクチン原材料と製造設備の不足が世界的に深刻化しているという、同程度に切迫しているにもかかわらずあまり注目を集めていない問題は解消されない。米国はワクチン製造に不可欠なフィルター、チューブ、シングルユースの専用バッグなど大量の資材をがっちりと抱え込んでいる。
インドなど新型コロナが猛威を振るっている国では、爆発的な感染拡大により病院や遺体安置所が飽和状態に陥っているが、仮に特許が放棄されたとしても、資材がなければワクチン製造は不可能だ。
この問題は、米国が1950年代の朝鮮戦争の際に制定した「国防生産法」(DPA)という法律に起因している。同法は、国防に関連する調達を優先させる権限を連邦機関に与えている。米軍関連の調達はもとより、自然災害などさまざまな事態に対応するために利用されてきた。
トランプ前政権は、米国で製造されるワクチンの他、今回のパンデミックへの対応に必要な製品に関して、連邦政府による調達を最優先とするためDPAを発動した。その代りにワクチン製造企業に対しては、連邦政府による命令に応じるために必要な資材全般について優先的なアクセスが認められた。