ミャンマーの衣料品業界、クーデターとコロナで崩壊寸前
工場経営者らによると、クーデターによる混乱は銀行システムにも波及し、原材料を仕入れたり、海外に製品を出荷したりするのも難しくなった。
クーデターには国際社会の非難が高まっているが、欧米のアパレルブランドは3月、業界団体を通じた声明で、ミャンマーの雇用を守り、事業契約を継続すると約束した。ところが、H&Mやネクスト、プライマーク、ベネトンを含め、多くのブランドは最近になってミャンマーへの注文を取りやめている。
ネクストは、以前にミャンマーに出していた注文をバングラデシュやカンボジア、中国に振り向けると表明。ベネトンは、主に中国に注文を切り替えると発表した。H&Mとプライマークは発注の具体的な変更方法について、まだコメントしていない。
貧困からの脱出手段
ベトナムの衣料品工場経営者はロイターの取材に対し、欧州のバイヤーと取引が増え始めたと明かした。そうしたバイヤーは、ミャンマーに出していた発注を切り替えているのだという。
国際的な労働者の権利擁護団体、エシカル・トレード・イニシアチブのピーター・マカリスター氏は「業界はミャンマーを切り捨てたくないが、そうせざるを得なくなりつつある」と指摘する。この団体には欧州の高級ブランドも加入している。
マカリスター氏は、中国の資本が去れば、ミャンマーの衣料品製造業が立ち直るのが非常に難しくなると述べた。
クーデター以降、ミャンマー国内で反中感情が強まっている。クーデターに抗議する人々は、西側に比べて中国によるミャンマー国軍への非難が及び腰だと口にしている。そんな中、リーさんの工場を含めた複数の中国系工場が3月、抗議デモのどさくさにまぎれて「正体不明」の集団に放火された。
国際的な人権団体はこれまでも、ミャンマーの衣料品製造業で労働者が搾取されている懸念があると再三訴えてきた。労働者のほとんどは女性で、一番安いケースだと日給は4800チャット(3.40ドル)と、東南アジアでも最低水準だ。
しかし、衣料品製造は多くのミャンマー人に貧困から抜け出す手段を提供してきた面がある。地方から最大都市ヤンゴンなどの周辺にある工場に出稼ぎにやって来て、家族の元に仕送りするのだ。
従業員3500人の工場のマネジングディレクター、Khin Maung Ayeさんは、軍が同国を民政に戻さなければ、衣料品製造業は崩壊に直面すると危機感を募らせている。この産業が消えれば、ミャンマーはひどい貧困状態に陥ると警告。現在はやはり、クーデター前の注文で何とか操業を維持しているものの、普段なら今月中に入ってくる次のシーズンの注文が来ないままになるのではないか、と気が気でない様子だ。
米国はミャンマー国軍などを対象に制裁を発動。3月下旬には、民主的に選ばれた政権が復活するまでは、ミャンマーとの通商と投資の枠組み合意に関する協議を停止すると発表した。ミャンマーに付与している特恵関税制度(GSP)を見直す意向も示している。
米国アパレル・履物協会(AAFA)のスティーブ・ラマー事務局長は、こうした米政府の動きがミャンマーの衣料品製造業界にとって、将来的なさらなる混乱の始まりになりかねないと警戒する。
それでもミャンマーの衣料品製造業の労組からは、たとえ業界がさらに打撃を受けることになるとしても、国際社会がミャンマー国軍に対し、もっと厳しい制裁を通じて圧力をかけるよう要望している。
ミャンマー連帯貿易労組を設立したMyo Myo Ayeさんは「注文が逃げていくのを受け入れる。雇用がなくなるので労働者はさまざまな困難や苦境に見舞われるだろう。しかし、われわれは軍事政権を絶対に認めない」と言い切った。
(Chen Lin 記者 John Geddie記者)
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