震災から10年、製造業は想定外に備え代替戦略 サプライチェーンで進む「見える化」
需要家にも危機意識
トヨタ自動車は2013年に導入した情報システムで、部品によっては10次の仕入先まで状況を補足している。地震発生時に震度の大きかった地点を検索すると、周辺に拠点をもつ仕入先の部品などの情報が把握でき、電話や現地での確認作業に速やかに移行できる。
トヨタには、東日本大震災時に「1次の仕入先からはすぐに情報が得られたが、2次以下は把握しにくかった」(広報)との問題意識があった。当時は供給網の状況把握に2週間程度かかった。これが今では半日で完了するという。
在庫のあり方も見直した。半導体は「部品によって違うが、1─4カ月程度の在庫を保有している」と、近健太執行役員は2月の決算会見で説明した。関係者によれば、自社在庫だけでなく、商社や1次、2次の仕入先など、供給網の各段階に分散して在庫を確保している。
トヨタにも課題は残る。例えば、加工が難しい部品など、調達先が限られる「リスク品目」がある。汎用品への設計見直しなどで約150へと震災前の10分の1に絞り込んできたが、自動車の技術革新とともに、新たなリスク品目は今後も生じ得る。有事に備えた供給網維持の取り組みは「終わりのない活動」(広報)と、同社では捉えている。
内閣府の調査によると、BCP策定済みの大企業は19年に68.4%まで拡大した。津波被害を受けたキリンホールディングスは、豪雨などあらゆる自然災害に対応した「オールハザード型のBCP」への変更や、複数購買を進めている。ENEOSホールディングス子会社のJX金属も複数購買を進め、主要仕入先のBCP対応を確認するようにした。
大企業での取り組みは進んできたが、中堅企業は内閣府の19年調査で34.4%、小規模企業は帝国データバンクによる20年の調査で7.9%にとどまった。京都産業大学の中野幹久教授は、供給網を統括するような部署が重要な役割を担うが、規模が小さい企業ほど設置が進んでいないと指摘。「最終製品を手掛ける大企業が、供給網をさかのぼって支援するような取り組みが重要」と話す。
(平田紀之 取材協力:白木真紀 編集:久保信博)
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