震災から10年、製造業は想定外に備え代替戦略 サプライチェーンで進む「見える化」
3月11日、東日本大震災から10年、大地震とその後の津波で生産が影響を受けた教訓から、企業は自社の被害への備えだけでなく、複雑に絡み合ったサプライチェーン(供給網)の維持に腐心している。写真は2012年5月、宮城県・大衡村のトヨタ自動車の工場で撮影(2021年 ロイター/Yuriko Nakao)
東日本大震災から10年、大地震とその後の津波で生産が影響を受けた教訓から、企業は自社の被害への備えだけでなく、複雑に絡み合ったサプライチェーン(供給網)の維持に腐心している。震災以降、仕入れ情報の「見える化」が進み、生産復旧までに必要な在庫量の把握や、想定以上の被害を受けた場合に代替生産できる体制を整備する動きが出ている。
10年前の震災で茨城県那珂工場が被災したルネサスエレクトロニクスは「BCPの視野を製造委託先や材料の仕入先を含めた供給網全体に広げた」(広報)と説明する。BCPとは「事業継続計画」のこと。震災時、ルネサスから車載用半導体の供給を受けられなくなった自動車部品メーカーは製品が作れず、その部品を組み立てる完成車メーカーも生産調整を迫られた。
ルネサスは当時の教訓を踏まえ、代替生産体制を整備。一部の製品については、工場が被災した場合に別工場や海外の生産委託先から同じ製品を出荷できるようにした。複数の被災シナリオに基づき、影響が見込まれる製品とその数量を「見える化」して顧客企業と共有し、有事に備えた「BCP在庫」の必要量を把握しやすくする取り組みも進めた。
内閣府が企業の事業継続と防災の取り組みについて2年ごとに実施している実態調査によると、09年に27.6%だったBCP策定済みの大企業は、11年に45.8%へ急上昇した。東日本大震災を契機にBCPへの意識が高まった様子がうかがえる。その後も比率は徐々に高まっている。
BCPに詳しい東京海上日動リスクコンサルティングの指田朝久主幹研究員は、「BCPの目的は、製品やサービスの供給責任を果たすこと」だと指摘。被災工場の復旧と並んで、被害が甚大な場合も踏まえた「代替生産の戦略は必須」と話す。
2016年の熊本地震で被災したアイシン精機は、早い段階で代替生産の方針を決め、供給網への影響を抑制した。熊本県熊本市にある工場は天井のクレーンが落下するなど被害が大きく、建屋や設備の回復に半年かかった。一方、製品の出荷は、約10日で再開した。自社の別の工場や他社の工場を間借りし、被害のなかった設備や金型を持ち込んで代替生産の体制を早期に整えたためだ。
アイシン精機は、東日本大震災を含め過去の災害時に自動車業界の生産に影響が出たことを踏まえ、供給網を把握するシステムの開発を進めていた。「見える化」によって、最終製品への影響やその仕入先が短時間で分かり、「代替生産の計画に生きた」(アイシン精機広報)という。
「商談時に顧客から事業継続計画(BCP)を求められるのは今や当たり前」と、部品メーカーの関係者は話す。BCPが不十分な企業は他の企業との複数購買の対象となり、販売機会を競合に譲り渡すことにもなりかねない。