最新記事

日本企業

震災から10年、製造業は想定外に備え代替戦略 サプライチェーンで進む「見える化」

2021年3月11日(木)13時07分
宮城県・大衡村のトヨタ自動車の工場

3月11日、東日本大震災から10年、大地震とその後の津波で生産が影響を受けた教訓から、企業は自社の被害への備えだけでなく、複雑に絡み合ったサプライチェーン(供給網)の維持に腐心している。写真は2012年5月、宮城県・大衡村のトヨタ自動車の工場で撮影(2021年 ロイター/Yuriko Nakao)

東日本大震災から10年、大地震とその後の津波で生産が影響を受けた教訓から、企業は自社の被害への備えだけでなく、複雑に絡み合ったサプライチェーン(供給網)の維持に腐心している。震災以降、仕入れ情報の「見える化」が進み、生産復旧までに必要な在庫量の把握や、想定以上の被害を受けた場合に代替生産できる体制を整備する動きが出ている。

10年前の震災で茨城県那珂工場が被災したルネサスエレクトロニクスは「BCPの視野を製造委託先や材料の仕入先を含めた供給網全体に広げた」(広報)と説明する。BCPとは「事業継続計画」のこと。震災時、ルネサスから車載用半導体の供給を受けられなくなった自動車部品メーカーは製品が作れず、その部品を組み立てる完成車メーカーも生産調整を迫られた。

ルネサスは当時の教訓を踏まえ、代替生産体制を整備。一部の製品については、工場が被災した場合に別工場や海外の生産委託先から同じ製品を出荷できるようにした。複数の被災シナリオに基づき、影響が見込まれる製品とその数量を「見える化」して顧客企業と共有し、有事に備えた「BCP在庫」の必要量を把握しやすくする取り組みも進めた。

内閣府が企業の事業継続と防災の取り組みについて2年ごとに実施している実態調査によると、09年に27.6%だったBCP策定済みの大企業は、11年に45.8%へ急上昇した。東日本大震災を契機にBCPへの意識が高まった様子がうかがえる。その後も比率は徐々に高まっている。

BCPに詳しい東京海上日動リスクコンサルティングの指田朝久主幹研究員は、「BCPの目的は、製品やサービスの供給責任を果たすこと」だと指摘。被災工場の復旧と並んで、被害が甚大な場合も踏まえた「代替生産の戦略は必須」と話す。

2016年の熊本地震で被災したアイシン精機は、早い段階で代替生産の方針を決め、供給網への影響を抑制した。熊本県熊本市にある工場は天井のクレーンが落下するなど被害が大きく、建屋や設備の回復に半年かかった。一方、製品の出荷は、約10日で再開した。自社の別の工場や他社の工場を間借りし、被害のなかった設備や金型を持ち込んで代替生産の体制を早期に整えたためだ。

アイシン精機は、東日本大震災を含め過去の災害時に自動車業界の生産に影響が出たことを踏まえ、供給網を把握するシステムの開発を進めていた。「見える化」によって、最終製品への影響やその仕入先が短時間で分かり、「代替生産の計画に生きた」(アイシン精機広報)という。

「商談時に顧客から事業継続計画(BCP)を求められるのは今や当たり前」と、部品メーカーの関係者は話す。BCPが不十分な企業は他の企業との複数購買の対象となり、販売機会を競合に譲り渡すことにもなりかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ

ワールド

トランプ氏、北朝鮮の金総書記と「コミュニケーション

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中