震災から10年、トヨタが受けたサプライチェーン寸断 半導体不足で教訓いかす
東日本大震災後、トヨタはMCUをはじめとする半導体の調達手法を改めた。関係者4人によると、事業継続計画(BCP)の一環として、災害などが起きてもしばらく製品を納入できるだけの半導体在庫を持つよう、サプライヤーに求めた。期間は種類によって異なるものの、多くは3.5カ月から4カ月分。長いものでは6カ月分、中にはそれを超える場合もあるという。半導体を発注してから納品されるまでのリードタイムに当たる。
こと半導体に関しては、トヨタは従来の生産管理手法の「教科書」を書き直した。世界的に半導体が不足し、サプライチェーンリスクが注目される今、トヨタはその成果を本格的に示しつつある。
トヨタ関係者によると、在庫を極力絞る戦略の目的の1つは、サプライチェーン上の非効率な部分とリスクを洗い出すことだという。目詰まりしそうな部分を浮かび上がらせ、それを回避する。
「事業継続計画は、問題を顕在化させて解決していくトヨタのやり方そのものだ」と、同社広報は言う。
複数の関係者によると、トヨタは半導体在庫を積み増したサプライヤーに対し、毎年の原価低減活動で下がったコストの一部を還元している。トヨタの場合、MCUの在庫はデンソーのような部品メーカー、半導体商社、ルネサスや台湾のTSMCのような半導体メーカーが持つ。
関係者によると、様々な種類があるMCUのうち、現在供給が不足しているのは最先端のものではなく、線幅28ー40ナノメートルのより一般な半導体だという。
技術のブラックボックス化
トヨタが競合他社と比べ、今回の半導体不足をうまく乗り切っているのにはもう1つの理由があると、関係者は指摘する。サプライヤーから供給された部品をそのまま完成車に組み入れるのではなく、自動車に使われる技術を完全に理解しようとする姿勢だという。
「この基本的な姿勢が他社との差別化につながっている」と、トヨタの技術者の1人は言う。「半導体に不具合を起こす要因から、製造プロセスで使うガスや薬品まで、半導体の技術を知り尽くしている。技術を買ってくるだけでは得られない、違うレベルの知識だ」と、同関係者は話す。
自動車メーカーが使う半導体とデジタル技術は21世紀に入って爆発的に増えている。ハイブリッド車や電気自動車の普及だけでなく、自動運転技術やネットワーク接続機能の搭載が進み、一段と強力な計算能力が必要となったことが背景にある。その対応として、複数の集積回路を1つの基板に載せたシステム・オン・チップ(SOC)と呼ばれる半導体が使われるようになってきた。
こうした技術は新しく、特殊なため、自動車メーカーの多くはリスク管理も半導体メーカーに任せるきらいがある。
しかし、技術のブラックボックス化を嫌うトヨタは、30年以上にわたって社内で半導体の知見を蓄えてきた。電機メーカーの技術者を受け入れ、1989年には愛知県豊田市に半導体工場を完成させ、1997年に市販化するハイブリッド車「プリウス」につながった。
トヨタは2019年、この工場をグループ会社のデンソーに引き渡し、電子部品事業をデンソーに集約した。
東日本大震災でBCPを確立したことに加え、早くから半導体の自社開発と生産に乗り出して深い知識を蓄えてきたことが、足元の半導体不足の危機を回避できている大きな要因だと、ロイターが取材した関係者は口をそろえる。
一方、このうち2人はトヨタが半導体開発をデンソーに一本化したことを懸念する。効率化と専門性を高めるという目的のために、技術のブラックボックス化を嫌がる姿勢を失うかもしれないと危惧する。
「今回の半導体不足は乗り切れたかもしれないが、この先何が待ち構えているかは誰も分からない」と、関係者の1人は言う。「開発の効率化という名のもと、技術に対する知見を失うかもしれない」
(白水徳彦 日本語記事作成:久保信博 編集:橋本浩)
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