サウジ、外国からの投資誘致でドバイに挑む 熱き中東ビジネス拠点争奪戦
サウジへの直接投資の促進を目的とする政府機関、インベスト・サウジの資料によると、サウジは本社を置かない企業と事業契約しないという「ムチ」とともに、リヤドに本社を置く企業に対して、1)法人税を50年間免除、2)サウジ国民の採用割り当て義務の10年間免除、3)政府機関の入札・契約で優遇する可能性──といった「アメ」も与える方針。さらに移転の支援、ライセンス発行にかかる時間の短縮、配偶者向け就労許可規則の緩和なども行う。
ジャドアーン氏によると、一部のセクターは政府案件契約に本社設置を義務付ける新規則の適用自体も免除される。詳細は年内に公表される予定だ。
抜け道から漏れ出す可能性
サウジのムハンマド皇太子が推進している社会・経済改革では、国家の近代化と外国からの投資呼び込みを通じた脱石油化が図られており、2030年までにリヤドを国際的な都市にすることを目指している。
確かにムハンマド皇太子はコンサートの規制を緩和し、女性の自動車運転を認め、40年ぶりに映画を解禁するなど、サウジとしては実に大胆な措置を実施した。
ところが、ドバイには既に複合型映画館やナイトクラブ、海岸に面した世界クラスのホテルなどがそろっており、新型コロナが猛威を振るう前は、毎年数百万人の旅行者が訪れていた。
これに対してサウジは、英ロンドンの新興開発金融街・カナリーワーフの約4倍の規模を持つ「アブドゥラ国王金融地区」を建設するプロジェクトを2006年に打ち出したものの、近年は政治的な混乱や不透明な法制度、コロナ禍などにたたられ、うまく進展していない。
UAEはずっと前からビジネスを誘致しており、数十年が経過した今になって、リヤドに本社を移転するのは難しいと、複数の銀行関係者は述べた。
今後は金融機関の間で、本社機能をドバイに残したまま、サウジにある事務所を名前だけ中東本社に変えるケースが出てきてもおかしくないとの声も聞かれる。銀行関係者の1人は「(移転は)政府との契約で生まれる収入の規模によって正当化される必要がある。1つの投資銀行として考えると、拠点を動かすのが適切だと証明してくれるほどの収入は存在しない」と冷ややかだ。
アメリカン・エンタープライズ研究所のカレン・ヤング研究員は、サウジの取り組みは「抜け道」の利用を促し、当初の目的を阻害して経済成長が生まれない恐れがあるとの見方を示した。
UAEとトルコにオフィスを置くフランクリン・テンプルトンは、サウジ政府が提示した今回の規則の詳細が明らかになるのを見極める考え。HSBC、JPモルガン、シティグループなど、ドバイの金融自由地区「ドバイ国際金融センター」に拠点を置く外国銀行は、いずれもコメントを避けた。
とはいえサウジのムハンマド皇太子は紅海沿岸に5000億ドル規模の大規模スマートシティーを建設する計画を立てていることから、ハイテク企業にとってはリヤドへの拠点設置が「理に適う」かもしれない。
米グーグルの政府関連部門のトップだったサム・ブラッテイス氏は「サウジでの事業拡大は、中東でチェスの駒を進める一手段となる」と述べ、大きな戦略としてとらえるべきだとみている。
(Marwa Rashad記者、Davide Barbuscia記者、Hadeel Al Sayegh記者)
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