最新記事

中東

サウジ、外国からの投資誘致でドバイに挑む 熱き中東ビジネス拠点争奪戦

2021年2月20日(土)11時25分

サウジへの直接投資の促進を目的とする政府機関、インベスト・サウジの資料によると、サウジは本社を置かない企業と事業契約しないという「ムチ」とともに、リヤドに本社を置く企業に対して、1)法人税を50年間免除、2)サウジ国民の採用割り当て義務の10年間免除、3)政府機関の入札・契約で優遇する可能性──といった「アメ」も与える方針。さらに移転の支援、ライセンス発行にかかる時間の短縮、配偶者向け就労許可規則の緩和なども行う。

ジャドアーン氏によると、一部のセクターは政府案件契約に本社設置を義務付ける新規則の適用自体も免除される。詳細は年内に公表される予定だ。

抜け道から漏れ出す可能性

サウジのムハンマド皇太子が推進している社会・経済改革では、国家の近代化と外国からの投資呼び込みを通じた脱石油化が図られており、2030年までにリヤドを国際的な都市にすることを目指している。

確かにムハンマド皇太子はコンサートの規制を緩和し、女性の自動車運転を認め、40年ぶりに映画を解禁するなど、サウジとしては実に大胆な措置を実施した。

ところが、ドバイには既に複合型映画館やナイトクラブ、海岸に面した世界クラスのホテルなどがそろっており、新型コロナが猛威を振るう前は、毎年数百万人の旅行者が訪れていた。

これに対してサウジは、英ロンドンの新興開発金融街・カナリーワーフの約4倍の規模を持つ「アブドゥラ国王金融地区」を建設するプロジェクトを2006年に打ち出したものの、近年は政治的な混乱や不透明な法制度、コロナ禍などにたたられ、うまく進展していない。

UAEはずっと前からビジネスを誘致しており、数十年が経過した今になって、リヤドに本社を移転するのは難しいと、複数の銀行関係者は述べた。

今後は金融機関の間で、本社機能をドバイに残したまま、サウジにある事務所を名前だけ中東本社に変えるケースが出てきてもおかしくないとの声も聞かれる。銀行関係者の1人は「(移転は)政府との契約で生まれる収入の規模によって正当化される必要がある。1つの投資銀行として考えると、拠点を動かすのが適切だと証明してくれるほどの収入は存在しない」と冷ややかだ。

アメリカン・エンタープライズ研究所のカレン・ヤング研究員は、サウジの取り組みは「抜け道」の利用を促し、当初の目的を阻害して経済成長が生まれない恐れがあるとの見方を示した。

UAEとトルコにオフィスを置くフランクリン・テンプルトンは、サウジ政府が提示した今回の規則の詳細が明らかになるのを見極める考え。HSBC、JPモルガン、シティグループなど、ドバイの金融自由地区「ドバイ国際金融センター」に拠点を置く外国銀行は、いずれもコメントを避けた。

とはいえサウジのムハンマド皇太子は紅海沿岸に5000億ドル規模の大規模スマートシティーを建設する計画を立てていることから、ハイテク企業にとってはリヤドへの拠点設置が「理に適う」かもしれない。

米グーグルの政府関連部門のトップだったサム・ブラッテイス氏は「サウジでの事業拡大は、中東でチェスの駒を進める一手段となる」と述べ、大きな戦略としてとらえるべきだとみている。

(Marwa Rashad記者、Davide Barbuscia記者、Hadeel Al Sayegh記者)


[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・フィット感で人気の「ウレタンマスク」本当のヤバさ ウイルス専門家の徹底検証で新事実
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...
→→→【2021年最新 証券会社ランキング】



20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中