最新記事

コロナバブル いつ弾けるのか

コロナ禍で株価だけが上がり続ける理由「最悪の中では最高にマシ」

DEFYING ECONOMIC REALITY

2021年2月2日(火)17時00分
ジェームズ・ドラン(豪ニューサウスウェールズ大学准教授)

ILLUSTRATION BY AGUNG FATRIA/ISTOCK

<株式市場はパンデミックで打撃を被る世界経済となぜここまで乖離するのか──投資マネーが集まるそのカラクリ>

(本誌「コロナバブル いつ弾けるのか」特集より)

「株式市場は経済ではない」

昔からよく言われるこの格言は、通常なら真実ではない。株式市場はしばしば経済を代弁するもので、経済がこの先どうなるかを指し示す優れた指標だ。しかし、現在の株式市場と新型コロナウイルスの感染拡大による21世紀最悪の経済危機との乖離を、この格言は的確に捉えている。

NWcover210209.jpgアマゾン、アップル、マイクロソフトなどテクノロジー銘柄が多いナスダック総合指数は、コロナ禍以前の2020年2月下旬と比較して40%近く値上がりし、1月下旬に過去最高値を更新した。アメリカの代表的な株価指数S&P500種も20年8月、コロナ禍以前の同年2月を上回り、過去最高値を更新している。

2008年のリーマン・ショック以降、S&P500種が下落以前の数値に回復するまでに約5年の年月がかかったことを考えれば、今回のコロナ禍からの回復は極めて早かった。しかも、アメリカ経済はコロナ禍でリーマン・ショック以上のダメージを受け、2020年4月には失業率が14.8%まで上昇したのに。

アメリカほどではないが、諸外国の株式市場も順調に回復している。東京株式市場の日経平均株価は、1月21日にバブル相場以来、30年5カ月ぶりの高値を付けた。

通常なら、株式市場は経済について多くのことを知らせてくれる。何か新しい情報が出れば、すぐに株の売買につながる。株価への期待感は、一般的には経済活動がどう展開するかを指し示す正確な指標となる。

しかし今回は、株式市場と実体経済が乖離する構造的な原因がありそうだ。投資家が株価をつり上げているのは、どこかに投資をしなければならないためで、株は「最悪の中では最高にマシ」な投資先だ。

一般的に投資先は5つある。株、不動産、商品取引、債券、そして銀行預金だ。

このうち不動産投資は極めてリスクが高くなった。コロナ対策支援で不動産価値は維持されているが、今後大きく下落する可能性がある。商品取引は、原油、小麦などが対象で、その価格はかなり変動する。コロナ禍で商品価格は下がっている。

では超安全資産の国債はどうだろう。債券の魅力は高い利回りで、それは金利とインフレへの期待に依拠している。金利は以前から下がっていたが、コロナ禍で拍車が掛かった。主要国の金利はいずれもマイナス、または実質ゼロにまで下がっている。金利が下がれば、預金金利も下がる。

すると残るのは株だ。今回の株価高騰の特徴は個人投資家の急増だ。ロックダウン(都市封鎖)などで消費の機会が減っていること、さらに暇な時間が増えたためだとみられている。また政府の経済対策の一部は、巡り巡って人々の投資資金になる。

過去には、失業率上昇の直前に株価が下がり、経済の先行きを示していた。しかし今回のコロナ禍では、株価は下がらなかった。今や株式市場は、経済の先行きについて何も教えてくれないのだ。

The Conversation

James Doran, Associate professor/Deputy head of school, UNSW

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

<2021年2月9日号「コロナバブル いつ弾けるのか」特集より>

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中