そしてアメリカ経済の「回復」が始まる
LOOKING PAST TRUMP, LOOKING PAST THE VIRUS
業種によっては、回復期の到来まで生き延びられなかった企業も多い。全米レストラン協会の2020年9月の報告では、同年3月以降に全米で約10万軒の飲食店が長期休業または閉店に追い込まれた。
スポーツ用品店、百貨店、小さな食品スーパーなどでは、破産申請後に清算を選んだところが多い。将来の再建を思い描くこともできなかったからだ。
トランプ以後の政治にも、まだ不透明感が漂う。当座の問題は、1月5日に行われるジョージア州の上院選決選投票の行方だ。争われるのは2議席。勢いに乗る民主党が2議席とも確保すれば、上院でも民主党は事実上の過半数を獲得できる。(編集部注:1月5日、民主党は勝利し、2議席とも確保した)
そうなれば思いどおりに法案を通せるから、失業者の救済も医療機関への支援も州政府や自治体への財政支援も、さらにはインフラ更新や医療制度の充実、再生可能エネルギーへの新規投資も進むだろう。
環境投資で株式市場も動く
こうした政策は、いずれも景気回復に拍車を掛ける。ただし決選投票で共和党が1議席でも勝利し上院の多数を維持した場合は、財政規律を口実にして歳出増加に反対し、予算の膨張に抵抗する可能性がある。
いずれにせよ、アメリカがトランプ以後の新しい時代に入るのは既定事実だ。共和党の抵抗があっても、バイデン政権は力強い経済成長に向けた政策を実行するだろう。例えば学生ローンの返済免除策。家賃も払えない大卒の若年層にとっては大きな救いとなるに違いない。
貿易面でも、良好な国際関係の再構築に向けた合理的で一貫した取り組みが期待される。バイデン自身には過去に保護主義に傾いた時期もあるが、トランプに比べればずっと自由貿易を支持している。貿易障壁を緩和し、各国との摩擦を減らそうと努める可能性が高い。
最も大きな変化が期待できるのは環境政策、とりわけ脱炭素化に向けた取り組みだ。バイデンは既に、アメリカは温暖化ガス排出量を削減するパリ協定に復帰すると明言している。
また環境保護局だけでなく、エネルギー省や財務省などの主要官庁も巻き込んで政策転換を進めるから、脱石油や省エネ、クリーン・エネルギーの普及に向けた税制改革なども進むと思われる。
そうした変化が経済と株式市場に及ぼす影響は大きい。現に電気自動車専業のテスラなどの株価は政府の支援を見越して高騰。カリフォルニア州の厳しい排ガス規制を覆そうとするトランプ政権の訴訟を支持していた自動車最大手ゼネラル・モーターズは支持を撤回し、2025年末までに電気自動車開発に270億ドルを投じると発表している。
ともかくも、最悪だけれど忘れ難い1年は過ぎた。だから今は楽観的になっていい。ただし油断は禁物だ。コロナの危機も国内の深刻な政治的分断も終わってはいない。どちらも危険で、先は見通せない。それが現実。
そう思えば、2021年の年明けは、ある意味で1年前の今と似ていなくもないが。
<2021年1月12日号「2021年に始める 投資超入門」特集より>
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