そしてアメリカ経済の「回復」が始まる
LOOKING PAST TRUMP, LOOKING PAST THE VIRUS
消費と雇用の回復には、連邦政府の景気刺激策も追い風となった。2020年3月に成立した総額2兆2000億ドルの支援策(通称CARES法)により、全世帯への現金支給や失業保険の給付延長、雇用維持を目的とした緊急融資などが行われた。
しかし大統領選が迫った秋口には追加支援策で与野党が合意できず、多くの施策が期限切れを迎え、用意した資金も尽きた。選挙後も現職大統領による抵抗で混乱が続いたため、期待された与野党協調はなかなか実現しない。このままだと、次はワクチン効果を待つしかない。
「ステイホーム」企業に恩恵
2021年にワクチン接種が想定どおり進めば、どんな法律よりも経済の再生に役立つ。ロックダウン(都市封鎖)の形態は州によって(同じ州内でも都市によって)大きく異なっていた。そして政府の規制や国民の消費抑制によって、現実の経済活動は大きく損なわれていた。
「ワクチンは経済と市場にとって、バイデン政権の政策より重要な転機となる」。そう言ったのはゴールドマン・サックスのストラテジスト、デービッド・コスティンだ。ファイザー社によるワクチン開発の成功は「これから徐々にでも社会を正常化させる前向きな話」だと評する。
ワクチン接種が進めば経済分野、とりわけホテルやレストラン、スポーツジム、輸送、小売りなど「人手」に依存する業種が急速に息を吹き返すだろう。それによって経済成長や株価にもよい影響が出るはずだ。ワクチン接種で免疫を持つ人が増えれば、それだけ多くの人が私生活でも仕事の面でも元の状態に戻れる。
「この感染症の炎が下火になり、外に出て歩き回っても安全と誰もが感じるようになれば、消費がどっと増えるだろう」と言うのはノーベル経済学賞の受賞者で民主党支持のポール・クルーグマン。「そうなればジョー・バイデンは(ロナルド・レーガン元大統領が景気の回復を自画自賛した)『モーニング・イン・アメリカ』的な景気回復を謳歌できる」かもしれない。
もちろん、マクロな数字で見えるのは表面的なことだけで、実際の景気回復局面には勝者もいれば敗者もいる。株式市場でも同様だ。
いわゆる「ステイホーム」の時期には、テレビ会議アプリのズーム、自宅で使うワークアウト用品のペロトン、オンラインショッピングのアマゾンといった企業の株が大きな恩恵を受けた。
2020年11月のニューヨーク・タイムズ紙によれば、アマゾンは全世界で毎日1400人も雇用を増やしていた。同年1~10月の新規雇用者数は42万7300人。今や全世界の従業員は120万人を超え、1年前の1.5倍以上だ。ただし、遠からず大幅な人員削減を余儀なくされるのは間違いない。
多くのエコノミストが危惧するのは、長期にわたる構造的なダメージだ。もともと資金力のある優良企業はコロナの危機も巧みに乗り切るだろうが、彼らの成長の陰では往々にして中小企業が犠牲になる。