最新記事

ISSUES 2021

不良債権による金融危機が「静かに」進行中──世界経済が直面する悪夢のシナリオ

THE QUIET FINANCIAL CRISIS

2021年1月4日(月)10時30分
カーメン・ラインハート(世界銀行副総裁兼チーフエコノミスト)

コロナ禍による外出規制で世界中の都市から人影が消えた(写真はシカゴ) JORGE VILLALBA-E+/GETTY IMAGES

<コロナ禍で膨張した回収不能な債権が銀行経営を圧迫し、ソブリン危機を招く事態を回避せよ──。特集「ISSUES 2021」より>

「金融危機」という用語は長年、銀行の取り付け騒ぎや資産価値の暴落といったドラマと関連付けられてきた。チャールズ・キンドルバーガーの古典的な名著『大不況下の世界』や筆者とケネス・ロゴフとの共著『国家は破綻する』には、こうしたエピソードが数多く書かれている。
20201229_20210105issue_cover200.jpg
近年では2007〜09年の世界金融危機を象徴する出来事として投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻、いわゆる「リーマン・ショック」が人々の記憶に焼き付いている。

だが、こうしたドラマを伴わない金融危機もある。景気後退が長引けば、特に企業と家計の借り入れが多ければ、金融機関の財務状況は悪化しかねない。また銀行が長年、生産性の低い民間企業や国有企業に融資を続けていれば、そのツケが積もり積もって銀行の経営を圧迫する。

こうした危機はパニックや取り付け騒ぎを起こさないまでも、複合的な損失をもたらす。融資先の返済能力を回復するために債務の再構築が行われるか、不良債権が処理されれば、公的資金が注入されることになり、政府と納税者にしわ寄せが行く。銀行は新規融資を控えるようになるため、経済活動が停滞する。信用収縮は中小企業や比較的所得の低い層の家計を直撃するから、所得格差も広がる。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が暮らしや経済に大打撃を与え続けていることはあらためて指摘するまでもないが、見逃されているリスクがある。金融部門で静かな危機が進行しつつあることだ。リーマン・ショックのような衝撃的なドラマはなくても、この危機は今後何年も世界経済の回復の足を引っ張る恐れがある。

不良債権の悪夢再び?

現状ではコロナ危機が収束しても、世界中の金融機関は不良債権の山に直面することになりかねない。コロナ危機は逆進的な危機であり、資金的な余裕のない低所得層や零細企業を直撃する。この層はコロナ禍の収束後もすぐには債務を返済できないだろう。

パンデミックが始まったときから、各国政府は広範な移動制限や社会的距離の確保で経済活動に急ブレーキがかからないよう、拡張的な金融・財政政策を打ち出してきた。国際機関も積極的に融資を行い、新興国と途上国を支援してきたが、財政に余裕のない国はコロナ不況にほぼお手上げの状態だ。

IMFの「政策トラッカー」が示すように、今回の危機では銀行が多様な形態で債務の支払いを猶予し、マクロ経済の刺激策を支えてきた。おかげで需要の急減にあえぐ企業も、失業や所得減の直撃に見舞われた家計も一息つくことができた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国大統領が戒厳令、国会は拒否 軍介入やデモなどで

ワールド

イスラエル高官、トランプ氏の人質解放要求を歓迎 ガ

ワールド

ブラジル第3四半期GDP、前期比0.9%増 金融引

ビジネス

米求人件数、10月は予想上回る増加 解雇は減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 6
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 7
    スーパー台風が連続襲来...フィリピンの苦難、被災者…
  • 8
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 9
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 10
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 9
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 10
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中