不良債権による金融危機が「静かに」進行中──世界経済が直面する悪夢のシナリオ
THE QUIET FINANCIAL CRISIS
コロナ禍による外出規制で世界中の都市から人影が消えた(写真はシカゴ) JORGE VILLALBA-E+/GETTY IMAGES
<コロナ禍で膨張した回収不能な債権が銀行経営を圧迫し、ソブリン危機を招く事態を回避せよ──。特集「ISSUES 2021」より>
「金融危機」という用語は長年、銀行の取り付け騒ぎや資産価値の暴落といったドラマと関連付けられてきた。チャールズ・キンドルバーガーの古典的な名著『大不況下の世界』や筆者とケネス・ロゴフとの共著『国家は破綻する』には、こうしたエピソードが数多く書かれている。
近年では2007〜09年の世界金融危機を象徴する出来事として投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻、いわゆる「リーマン・ショック」が人々の記憶に焼き付いている。
だが、こうしたドラマを伴わない金融危機もある。景気後退が長引けば、特に企業と家計の借り入れが多ければ、金融機関の財務状況は悪化しかねない。また銀行が長年、生産性の低い民間企業や国有企業に融資を続けていれば、そのツケが積もり積もって銀行の経営を圧迫する。
こうした危機はパニックや取り付け騒ぎを起こさないまでも、複合的な損失をもたらす。融資先の返済能力を回復するために債務の再構築が行われるか、不良債権が処理されれば、公的資金が注入されることになり、政府と納税者にしわ寄せが行く。銀行は新規融資を控えるようになるため、経済活動が停滞する。信用収縮は中小企業や比較的所得の低い層の家計を直撃するから、所得格差も広がる。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が暮らしや経済に大打撃を与え続けていることはあらためて指摘するまでもないが、見逃されているリスクがある。金融部門で静かな危機が進行しつつあることだ。リーマン・ショックのような衝撃的なドラマはなくても、この危機は今後何年も世界経済の回復の足を引っ張る恐れがある。
不良債権の悪夢再び?
現状ではコロナ危機が収束しても、世界中の金融機関は不良債権の山に直面することになりかねない。コロナ危機は逆進的な危機であり、資金的な余裕のない低所得層や零細企業を直撃する。この層はコロナ禍の収束後もすぐには債務を返済できないだろう。
パンデミックが始まったときから、各国政府は広範な移動制限や社会的距離の確保で経済活動に急ブレーキがかからないよう、拡張的な金融・財政政策を打ち出してきた。国際機関も積極的に融資を行い、新興国と途上国を支援してきたが、財政に余裕のない国はコロナ不況にほぼお手上げの状態だ。
IMFの「政策トラッカー」が示すように、今回の危機では銀行が多様な形態で債務の支払いを猶予し、マクロ経済の刺激策を支えてきた。おかげで需要の急減にあえぐ企業も、失業や所得減の直撃に見舞われた家計も一息つくことができた。