最新記事

外国人労働者

「小さな幽霊」不法出稼ぎタイ人、韓国で数百人が死亡 

2020年12月24日(木)17時45分

タイ外務省によると、在外大使館には全ての在外同胞人に対し、その法的立場にかかわらず気を配る義務がある。ただ、不法移民にアクセスするのは難しいとも説明した。

ソウルのタイ大使館は、現地の病院や警察からの報告に基づき、勤務中の死亡であれ在宅時の死亡であれ、出稼ぎ労働者の死亡データを集計している。大使館によると、遺体はすべて検死されるが、個別の結果は非公表という。

同大使館の当局者は「タイからの不法出稼ぎ労働者は就寝中に不慮の死を遂げることが多い。おそらく過労や、健康に問題を抱えているのに適切な医療処置を受けなかったことなどが原因だ」と説明。「こうした労働者はきつい汚れ仕事を引き受けているが、韓国の医療制度にはアクセスできない」と話した。

わたしたちは小さな幽霊

トムソンロイター財団は、韓国で働くタイ人不法労働者や、元不法労働者7人に話を聞いた。彼らが話したのは、最低賃金に満たない給与や、不衛生だったり危険だったりする労働環境での休みなしの勤務の実態だった。

32歳の女性ニドさん(仮名)は、チョンジュ(清州)市の簡易ホテルで清掃の仕事をしていたが、今年7月に熱を出して床に伏せった。

勤務シフトは1日15時間、休日は月にわずか1日と、韓国の労働法に違反する労働環境だった。熱で消耗し、ほぼ4カ月働くことができなかったという。

「あのときは、このまま寝入ったら二度と目が覚めないのではと不安に思った」と語る。今はマッサージ師として働くが、韓国で職に就くため、2016年にブローカーに10万バーツ(3330ドル)を払って以来、10番目の仕事だ。

ニドさんは病気で倒れた後、ソウルのタイ大使館に帰国支援を求めた。今は待機者リストに載っているというが、大使館のデータによると、同リストで韓国で待機しているのは現在1万人。

「結論はあらかじめ出ているみたい。わたしたちは小さい幽霊で、(タイ政府にとっても)違法にここに来るのを選んだのだから、我慢しろということよ」とニドさんは話す。

不法出稼ぎ労働者に無料で医療を提供する慈善団体もあるが、現在はコロナ禍でそのサービスにも支障が出ている。

法の枠外

タイ労働省によると、雇用許可制度を通じて韓国で働くタイ人労働者とその家族は、病気や死亡に際しては当局から金銭支援を受ける資格がある。しかし、同省当局者は、問題は大半の出稼ぎ労働者が不法滞在で、法の保護の外にあることだと話す。 

タイ政府は近年、啓蒙ビデオ作成や、たちの悪い人材採用ウェブサイトの取り締まりなど、海外での不法就労を防ぐ措置をいくつか導入した。

しかし、労働者の人権保護に取り組む活動家らは、それでは問題は解決しないと指摘する。タイ政府が、海外で国民が合法な状態で働きやすくする制度を整えるべきだとも訴える。

元出稼ぎ労働者のタイ人男性(51)はかつて、ブローカーの斡旋で入国したところ、最終的に大邱市の養豚場に送られた。休みは1日もなかった。3カ月働いても給与が支払われなかった時、男性は逃亡を決めた。

抜け出す前、寝ていた部屋の壁にタイ語で警告メッセージを残した。「タイの仲間達へ。ここに働きにやられたら、給料はもらえないと心得よ」──。

(Nanchanok Wongsamuth記者 Grace Moon記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・韓国、「正義」のユーチューバーらが暴走 児童性犯罪者の出所トラブルで周辺住民は恐怖の日々
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...



20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連

ワールド

米、イスラエルへの兵器出荷一部差し止め 政治圧力か

ワールド

反ユダヤ主義の高まりを警告、バイデン氏 ホロコース

ビジネス

経済の構造変化もインフレ圧力に、看過すべきでない=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 7

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 8

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 9

    ハマス、ガザ休戦案受け入れ イスラエルはラファ攻…

  • 10

    プーチン大統領就任式、EU加盟国の大半が欠席へ …

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中