D・アトキンソン「日本の観光業復活は『検査』に懸かっている」
TOURISM NEVER DIES
コロナ後はこれまで以上に富裕層誘致がカギ(写真は羽田空港) MICHAEL H-STONE/GETTY IMAGES
<世界の観光業はコロナ禍で大打撃を受けているが、人が旅をやめることはない。今後は富裕層から順に回復していくだろう。ただし、日本は「観光立国4条件」を満たす国だが決定的な問題がある。本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」より>
コロナ禍で脱グローバル化が起こるという議論があるようだが、そんなことは起こり得ないだろう。これまでにもペストやコレラなど、パンデミック(世界的大流行)は何度も起こったが、グローバル化が止まったことはかつて一度もなかった。
観光には「人の移動」が前提となるが、人類はある意味で、地球に誕生してからずっと移動してきた。アフリカにいた人類の祖先が気候変動の影響で絶滅の危機に瀕し、住む土地を求めてアジアやヨーロッパに移動したという世界史的事実が正しいとすれば、人間というのは移動する動物だ。つまり、人類の歴史は「観光」から始まったとも言える。
とはいえ、新型コロナウイルスが蔓延し、どの国でも観光業は止まっている。渡航が制限され、今年1~4月の国際観光収益は1950億ドルもの損失だ。グローバル化の潮流は変わらないが、影響は確かにある。世界観光機関は2017年、30年までに世界で18億人が外国旅行をすると予想していた。だが観光業は成長著しく、最近までその数は20億人を超えるのではないかと言われていた。この20億人はさすがに達成が難しくなり、当初の18億人程度にとどまるのではないか。
コロナ禍が世界の観光業にどのように影響するかといえば、業界の調整が進むとみている。調整される対象は「格安」だ。格安運賃の航空会社や、ぎりぎりの採算で経営している宿泊業などは生き残るのが難しい。私は最近、日本には低単価・低付加価値の企業が多過ぎて、これらの企業の生産性を上げなければならないと各地で訴えているが、それと通じるところがある。
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復活のためにPCR検査を
私は「おもてなし」などといった曖昧な概念に頼った日本の観光政策に疑問を抱き、15年に『新・観光立国論』、17年に『世界一訪れたい日本のつくりかた』(いずれも東洋経済新報社)という本を上梓した。観光大国になるには気候・自然・文化・食事の4条件を満たす必要があるが、日本はそれら全てを備えた国であり、データに基づいた政策を立てて実行すれば、世界有数の観光大国になれると訴えた。
ここ数年、日本の観光政策は随分と是正されてきていたと考えている。訪日観光客数も、15年の1974万人から19年には3188万人へと目覚ましい伸びを見せていた。世界で観光業の再開がいつ始まるかは政治的判断に左右されるので、私には分からない。それでも、日本が観光立国の4条件を満たしていることは今後も変わらない。