中国の鉄鋼産業、建設向け需要活況の陰に潜む不安 景気低迷長期化も
中国では3月以降、鉄鋼生産が拡大し、早期の景気回復への期待が広がっているが、鉄鋼需要は業界によって差があるのが実態だ。写真は2016年6月遼寧省の工場で撮影(2020年 ロイター)
中国では3月以降、鉄鋼生産が拡大し、早期の景気回復への期待が広がっているが、鉄鋼需要は業界によって差があるのが実態だ。
建設業ではインフラ事業を背景に鉄鋼需要が伸びているが、製造業の鉄鋼需要は回復ペースが鈍い。
中央政府や地方政府は、道路・鉄道・ダムなどインフラ事業への支出をコントロールできるが、機械や家電などの国内外の需要を喚起する手段は限られている。
アナリストによると、鉄鋼産業活況の陰に潜むこうした需要の脆弱さは、建設活動の季節的な低迷で今後はっきり露呈するとみられ、中国経済の回復には予想以上の時間がかかる可能性がある。
ANZの商品担当シニアストラテジスト、ダニエル・ハインズ氏は「世界経済が低迷する中、中国の鉄鋼産業にできることは限られている」と述べた。
中国経済の大黒柱
中国の巨大な鉄鋼産業は、「世界の工場」としての同国経済を支える大黒柱となってきた。
5月の鉄鋼生産は過去最高を記録。中国経済の心臓部が順調に回復し、国内外の経済の復活に寄与するのではないかとの期待が浮上した。
だが、こうした鉄鋼産業の急ピッチな回復は、建設現場の鉄鋼需要に大きく依存しており、その陰で製造業の需要は低迷が続いている。
ANZのハインズ氏は「市場は中国のインフラ事業に過度に期待しているように見える」と述べた。
鉄筋に依存
調査会社マイスティールのデータを基に算出すると、主に建設現場で使われる鉄筋や線材といった鉄鋼製品の需要は、3月下旬以降の鉄鋼需要全体の平均53%以上を占めている。
この比率は2019年通年では平均47.5%、前年同期は51%だった。
一方、主に製造業で利用される熱延コイル、冷延コイルといった鉄鋼製品が3月下旬以降の鉄鋼需要に占める比率は35%で、例年の水準を大きく下回っている。2019年の同比率は平均40.4%だった。
鉄筋の在庫は他の鉄鋼製品よりも急ピッチで減少。3月中旬のピークから51%縮小している。
多くの貿易相手国でロックダウン(都市封鎖)が実施されたことを踏まえれば、製造業の鉄鋼需要が伸び悩んでいることに意外感はなく、需要低迷は今後数カ月続く可能性がある。
だが、鉄鋼製品全体の生産は急増しており、今後、市場が供給過剰に陥るリスクがある。
鉄筋の生産は3月中旬以降59%増加。線材の生産も40%増加している。一方で、特に中国南部は雨期に入り、建設現場の鉄鋼需要が打撃を受けるとみられている。
中国南部では8月までモンスーンが続くが、今年は例年より10日早くモンスーン期に入った。すでに様々な地域で水害が発生し、一部の建設現場で作業がストップしている。
コンサルティング会社CRU(北京)のシニアアナリスト、リチャード・ルー氏は「季節要因で鉄鋼消費が低迷する時期に入りつつある。天候次第だが、6月下旬でなくても、遅くても7月からは消費が減少するだろう」と述べた。
鉄筋先物の中心限月は4月1日以降、14%値上がりしている。
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