最新記事

中国経済

中国の鉄鋼産業、建設向け需要活況の陰に潜む不安 景気低迷長期化も

2020年6月22日(月)14時38分

中国では3月以降、鉄鋼生産が拡大し、早期の景気回復への期待が広がっているが、鉄鋼需要は業界によって差があるのが実態だ。写真は2016年6月遼寧省の工場で撮影(2020年 ロイター)

中国では3月以降、鉄鋼生産が拡大し、早期の景気回復への期待が広がっているが、鉄鋼需要は業界によって差があるのが実態だ。

建設業ではインフラ事業を背景に鉄鋼需要が伸びているが、製造業の鉄鋼需要は回復ペースが鈍い。

中央政府や地方政府は、道路・鉄道・ダムなどインフラ事業への支出をコントロールできるが、機械や家電などの国内外の需要を喚起する手段は限られている。

アナリストによると、鉄鋼産業活況の陰に潜むこうした需要の脆弱さは、建設活動の季節的な低迷で今後はっきり露呈するとみられ、中国経済の回復には予想以上の時間がかかる可能性がある。

ANZの商品担当シニアストラテジスト、ダニエル・ハインズ氏は「世界経済が低迷する中、中国の鉄鋼産業にできることは限られている」と述べた。

中国経済の大黒柱

中国の巨大な鉄鋼産業は、「世界の工場」としての同国経済を支える大黒柱となってきた。

5月の鉄鋼生産は過去最高を記録。中国経済の心臓部が順調に回復し、国内外の経済の復活に寄与するのではないかとの期待が浮上した。

だが、こうした鉄鋼産業の急ピッチな回復は、建設現場の鉄鋼需要に大きく依存しており、その陰で製造業の需要は低迷が続いている。

ANZのハインズ氏は「市場は中国のインフラ事業に過度に期待しているように見える」と述べた。

鉄筋に依存

調査会社マイスティールのデータを基に算出すると、主に建設現場で使われる鉄筋や線材といった鉄鋼製品の需要は、3月下旬以降の鉄鋼需要全体の平均53%以上を占めている。

この比率は2019年通年では平均47.5%、前年同期は51%だった。

一方、主に製造業で利用される熱延コイル、冷延コイルといった鉄鋼製品が3月下旬以降の鉄鋼需要に占める比率は35%で、例年の水準を大きく下回っている。2019年の同比率は平均40.4%だった。

鉄筋の在庫は他の鉄鋼製品よりも急ピッチで減少。3月中旬のピークから51%縮小している。

多くの貿易相手国でロックダウン(都市封鎖)が実施されたことを踏まえれば、製造業の鉄鋼需要が伸び悩んでいることに意外感はなく、需要低迷は今後数カ月続く可能性がある。

だが、鉄鋼製品全体の生産は急増しており、今後、市場が供給過剰に陥るリスクがある。

鉄筋の生産は3月中旬以降59%増加。線材の生産も40%増加している。一方で、特に中国南部は雨期に入り、建設現場の鉄鋼需要が打撃を受けるとみられている。

中国南部では8月までモンスーンが続くが、今年は例年より10日早くモンスーン期に入った。すでに様々な地域で水害が発生し、一部の建設現場で作業がストップしている。

コンサルティング会社CRU(北京)のシニアアナリスト、リチャード・ルー氏は「季節要因で鉄鋼消費が低迷する時期に入りつつある。天候次第だが、6月下旬でなくても、遅くても7月からは消費が減少するだろう」と述べた。

鉄筋先物の中心限月は4月1日以降、14%値上がりしている。


【話題の記事】
・新型コロナ、血液型によって重症化に差が出るとの研究報告 リスクの高い血液型は?
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・アメリカが接触追跡アプリの導入に足踏みする理由
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大

ビジネス

中国、来年の消費財下取りに89億ドル割り当て スマ

ワールド

カンボジアとの停戦維持、合意違反でタイは兵士解放を

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席とサプライチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中