コロナ禍、それでも中国から工場は戻ってこない
NO, JOBS WILL NOT COME BACK
貿易戦争に突入してから3年、トランプ政権の筋書きどおりなら、既に多くの企業が中国からアメリカに製造拠点を戻し、高率関税を回避しているはずだった。しかし中国で新型コロナウイルスの感染爆発が起きても、アメリカ企業が国内に逃げ帰った形跡はほとんどない。
コストよりもリスクの問題
調査会社パンジバの分析リポートによれば、貿易戦争の勝者は東南アジア諸国、特にベトナムだ。グーグルは新しいスマートフォンの製造拠点を中国からベトナムに移した。マイクロソフトも同国でパソコンの生産を始める予定だ。
コンサルティング会社カーニーが発表した最新の「回帰指数」報告を見ても、アメリカの製造業に復活の兆候はみられない。同社によれば、貿易戦争のため中国からの輸入は2018年から2019年にかけて17%ほど減ったが、その他のアジア諸国やメキシコがその半分を穴埋めし、米国内の工業生産高は横ばいのままだ。
【参考記事】米中貿易戦争の敗者は日本、韓国、台湾である
それでも今回のコロナ危機で事情は変わるだろうか。その可能性は、確かにある。パンジバの国際貿易・ロジスティクス分析の責任者であるクリス・ロジャースは、貿易戦争の影響が単にコスト面の問題だったのに対して、コロナ危機はリスクの問題だと指摘する。国境の閉鎖や都市封鎖、物流の遮断、輸出規制といった不意打ちのリスクを回避するため、企業が中国依存からの脱却を図る可能性は高いという。
コストよりもリスクを減らすための中国脱出というわけだが、それで工場はアメリカに戻ってくるのだろうか。「その可能性は低い」とカーニーの報告は結論付け、「2019年の米製造業成長率の重しになった各種の制約は、今後も引き続き米製造業の重しであり続ける」としている。
仮にコロナ危機後に製造業がアメリカに戻ったとしても、それで本当にアメリカ人の満足する給料と安定した雇用が生まれるだろうか。現実は、それが希望的観測にすぎないことを示している。
そもそも製造業は、昔ほどアメリカの労働市場で大きな地位を占めていない。1970年代にはアメリカ人の4人に1人が製造業で働いていたが、今は10人に1人を下回る。それに、今の工場は自動化が進んでいる。例えば韓国のLG電子は先頃テネシー州に新たな大規模工場を建設したが、そこでは産業用ロボットが多くの仕事をこなしている。