最新記事

米中新冷戦2020

コロナ禍、それでも中国から工場は戻ってこない

NO, JOBS WILL NOT COME BACK

2020年6月11日(木)06時40分
エドワード・オルデン(米外交評議会上級研究員)

貿易戦争に突入してから3年、トランプ政権の筋書きどおりなら、既に多くの企業が中国からアメリカに製造拠点を戻し、高率関税を回避しているはずだった。しかし中国で新型コロナウイルスの感染爆発が起きても、アメリカ企業が国内に逃げ帰った形跡はほとんどない。

コストよりもリスクの問題

調査会社パンジバの分析リポートによれば、貿易戦争の勝者は東南アジア諸国、特にベトナムだ。グーグルは新しいスマートフォンの製造拠点を中国からベトナムに移した。マイクロソフトも同国でパソコンの生産を始める予定だ。

コンサルティング会社カーニーが発表した最新の「回帰指数」報告を見ても、アメリカの製造業に復活の兆候はみられない。同社によれば、貿易戦争のため中国からの輸入は2018年から2019年にかけて17%ほど減ったが、その他のアジア諸国やメキシコがその半分を穴埋めし、米国内の工業生産高は横ばいのままだ。

【参考記事】米中貿易戦争の敗者は日本、韓国、台湾である

それでも今回のコロナ危機で事情は変わるだろうか。その可能性は、確かにある。パンジバの国際貿易・ロジスティクス分析の責任者であるクリス・ロジャースは、貿易戦争の影響が単にコスト面の問題だったのに対して、コロナ危機はリスクの問題だと指摘する。国境の閉鎖や都市封鎖、物流の遮断、輸出規制といった不意打ちのリスクを回避するため、企業が中国依存からの脱却を図る可能性は高いという。

コストよりもリスクを減らすための中国脱出というわけだが、それで工場はアメリカに戻ってくるのだろうか。「その可能性は低い」とカーニーの報告は結論付け、「2019年の米製造業成長率の重しになった各種の制約は、今後も引き続き米製造業の重しであり続ける」としている。

仮にコロナ危機後に製造業がアメリカに戻ったとしても、それで本当にアメリカ人の満足する給料と安定した雇用が生まれるだろうか。現実は、それが希望的観測にすぎないことを示している。

そもそも製造業は、昔ほどアメリカの労働市場で大きな地位を占めていない。1970年代にはアメリカ人の4人に1人が製造業で働いていたが、今は10人に1人を下回る。それに、今の工場は自動化が進んでいる。例えば韓国のLG電子は先頃テネシー州に新たな大規模工場を建設したが、そこでは産業用ロボットが多くの仕事をこなしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中