消費者が思うより物価は高い(コロナ不況から家計を守る経済学)
BEHAVIORAL ECONOMICS
Drazen Zigic-iStock.
<投資判断から公的政策まで、コロナ対応に役立つのが行動経済学。家計や事業を守るためには何を知っておくと便利か。「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集の記事「ポストコロナを行動経済学で生き抜こう」から一部を抜粋>
※この記事は「コロナ禍での『資産運用』に役立つ行動経済学(3つのアドバイス)」の続きです。
消費者が思うより物価は高い点に注意
日常的に買う商品の価格を覚えておこうという気にはなかなかならないのが現代という時代だ。アマゾンに代表されるオンラインストアはクリック1つで買い物ができて便利だが、価格はアマゾンのアルゴリズムによって大きく上下する。おかげで多くの商品で、決まった価格帯というものが存在し得なくなっている。
昔の人であればものの価格をきちんと記憶し、財布の中にどのくらいの現金を入れておかなければならないか正確に把握していただろう。だがクレジットカードとデビットカードが普及したせいでその必要もなくなってしまった。
しかも商品の種類や数が増えたために、日常的に買う品物の価格を記憶することはさらに難しくなっている。なにせ消費者の記憶力には限界がある(情報処理能力などの限界により人間は必ずしも完全に合理的な行動をしないという「限定合理性」の問題もある)。経済学者のジェームズ・ベッセンによれば、食品雑貨店で扱われる商品の種類は80年前に比べて50 倍に増えているという。
私がアメリカのテレビで長年放映されてきた値段当てのクイズ番組『プライス・イズ・ライト』を行動経済学的に分析したところ、時代とともに出場者(つまり消費者)は日常的な商品の価格をきちんと答えられなくなっていることが分かった。1970年代には実勢価格とのずれは1桁だったのに、2010年代には実勢価格より20%も低い額を答えるようになっていたのだ。
人々が価格に対して無頓着になったために、消費者のインフレ期待が必要以上に弱められている可能性もある。それに伴い、中央銀行がインフレ期待を引き上げることを意図した金融緩和策を通してインフレ率を上げることも難しくなっているかもしれない。
こうした状況は一般の消費者にとって何を意味するのだろう。まず、スーパーで買うような日常的な商品の価格は、自分が意識するよりも実際には高い可能性がある。それを肝に銘じて予算を立てるのが賢明だ。