新型コロナウイルスがあぶり出した「中国依存」 国内回帰阻む少子高齢化の呪縛
サプライチェーン見直しに立ちはだかる為替・人手不足のハードル
経産省幹部は「自動車にせよ、何にせよ、サプライチェーンを見直さなければならない」と危機感を示す。例えば、自動車なら、下請けが作る部品は共通化し、かつ、日本を含む複数の地域で生産することでリスク回避ができるようになる。付加価値の高い製品は日本、汎用品はASEAN各国への分散が念頭にある。
日本電産の永守重信・最高経営責任者(CEO)は4月30日の会見で、今回、どの部品が入手困難になり、そのことがどのような影響を与えたかを徹底的に分析し、直ちにそこに投資すると表明。「何かあったときには自分のマザー工場からきちっと部品を供給できるという体制に切り替える」と語った。
しかし、永守氏のように、すぐにサプライチェーン見直しに着手する動きは少ない。国内生産した「マスク」の需要は国内にあるものの、自動車や電機は需要が海外にあり、サプライチェーン改革は容易には進まない。あるメーカーの幹部は「人口が多い、需要が多いという呪縛からはなかなか解き放たれない」と、脱中国の難しさを指摘する。
大手自動車メーカー関係者も「中国の自動車市場の進展で中国のパーツメーカーの存在感も大きくなっている。安くていろいろな部品が調達できる中国製の比率を下げようと思っても、なかなかすぐにはできないだろう」と述べている。
日本のメーカーは、2010―11年の超円高の際に海外移転した企業が多く、根深い円高への恐怖もあるという。さらには、日本の人手不足も懸念材料となる。ある自動車部品メーカーの幹部は「日本への生産回帰についてはやりたくてもなかなかできないのが現状。最大の課題は人手不足と高賃金。特に人手不足は大きな問題」と指摘する。
PwCが4月6日の週に最高財務責任者(CFO)21人へ行った調査によると、サプライチェーンの変更を検討しているのは24%にとどまり、「いいえ」が57%、「分からない」が19%となっている。
問題は新たなフェーズに
新型コロナの感染が拡大し始めた2月20日、経産省は「新型コロナウイルス対策検討自動車協議会」を設置した。サプライチェーンの混乱から日本の自動車生産に影響が出ないように対応するためで、影響が顕在化する前からの立ち上げに、当局の強い懸念が表れていた。
しかし、同協議会の第2回会合が開かれたのは4月30日。「事態は短期で変わる。サプライチェーンを飛び越えて、需要面の問題になった」(別の経産省幹部)という状況で、足元では雇用維持や資金繰りなどへの対応が優先され、サプライチェーン問題への対応どころではなくなっている。
(取材協力:白木真紀 田実直美 山崎牧子 平田紀之 編集:石田仁志)
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