コロナ危機対応の日銀 大胆施策の影で消える物価と金利の枠組み
日銀の金融政策決定会合について、市場関係者からは踏み込んだ企業金融支援や政府の財政支出への支援など、危機対応としての大胆な政策に理解を示す声も目立つ。写真は1月、日銀本店で記者会見する黒田東彦総裁(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
日銀の27日の金融政策決定会合について、市場関係者からは踏み込んだ企業金融支援や政府の財政支出への支援など、危機対応としての大胆な政策に理解を示す声も目立つ。一方、物価モメンタムは損なわれたとして2%の物価安定目標の実現に事実上白旗をあげ、政策金利に物価を紐付ける枠組みも危機モードを理由に停止した。危機を理由に中央銀行がロジックの明確でない対症療法に走る姿には危うさもあるとの指摘も出ている。
危機対応モードでの踏み込んだ政策
今日の日銀による政策決定については、その踏み込んだ政策にBOJウォッチャーからは理解を示す声も多い。「CPや社債買い入れ増額の量と要件緩和の大盤振る舞いは、危機感の証左だ。国債のさらなる積極的な買い入れを明記し、財政と金融の連携をアピールした」(大和証券・チーフマーケットエコノミスト・岩下真理氏)として、日銀の強い取り組み姿勢を表しているとの評価が目立つ。
こうした措置は、危機モードにおいて中央銀行ができるだけの措置をとる姿勢を示し企業や市場に安心感を与えるものだ。ただ、そうした姿勢に懸念を示す声も浮上している。
2%物価目標はどこへ
一つの例が物価と政策金利を紐づけてきた枠組みだ。日銀が将来の金融政策の方向性を説明する指針である「フォワードガイダンス」。これまで物価上昇の勢いである「物価モメンタム」に注目して、政策金利の水準と紐づけていた。
ところが今回の声明では「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」とのみ記され、「物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれるおそれに注意が必要な間」との文言が削除された。黒田総裁は会見でこの部分を削除した理由として「もはや物価モメンタムが損なわれている」と説明。「物価のモメンタムに紐づけたフォワードガイダンスでは政策金利を維持ないし引き下げるとする期間が不明瞭になる」と語った。
SMBC日興証券チーフマーケットエコノミストの丸山義正氏はこれについて「物価のモメンタムに依拠した金融緩和やマイナス金利の深掘りに対し、明確に距離を置いた」と分析する。
第一生命経済研究所の首席エコノミスト、熊野英生氏は「まるで木造家屋が焼け落ちるかのように、中央銀行の枠組みが崩れてしまった」と指摘。できることは何でもやるといった政策に疑問を呈している。国債購入についても同様で、必要なら無制限に購入するといった決定は「予見可能性のない政策」だとして、既成事実先行型の政策になっていると懸念を示している。
この日発表された展望リポートでは2%という物価目標が10年の歳月をかけても達成困難であることが示された。経済成長は今年度の大幅な悪化の反動もあり21年度は最大3.9%の高い成長率となり、22年度もプラス成長が見込まれる一方で、物価上昇率は22年度でも最大1.0%にとどまる。
ゴールドマン・サックスの日本担当チーフ・エコノミスト馬場直彦氏は「異次元緩和を始めてちょうど10年に当たる黒田総裁の任期終了(23年4月初)前に、2%物価目標を達成することは不可能と、日銀が事実上認めたことと等しい」と指摘する。