コロナ危機対応の日銀 大胆施策の影で消える物価と金利の枠組み
物価上がらぬ理由に溢れる日本、デフレへの懸念
日本では現在、物価を押し上げる要因はほとんど見当たらない。
消費増税後も価格転嫁が進まず、高校授業料の無償化、携帯電話通信料の引き下げにエネルギー価格の下落も重なり、消費者物価の前年比はマイナス圏が視野に入るのが現実だ。21年度には成長率が高めのプラスに戻ることで需給ギャップは改善に向かうはずだが、黒田総裁は企業が経営体力を低下させた状態から戻る過程で、賃金がすぐに上昇するとは考え難いと指摘している。
今回の展望リポートの物価見通しが、民間見通しとさほど大きなずれなく低めであることもこうした背景を踏まえたもので、「自然体の数字に漸く収れんできたようだ」(岩下氏)と、むしろ評価する声もある。
ただ、20年度の物価をマイナスとしながらも、再び21年度にプラス基調に戻るシナリオを示した背景には、デフレに対する苦い経験もあるとみられる。いったんデフレが定着すれば、そこから脱することがいかに困難か、日本では実証済みだ。
新型コロナ騒動で物価が停滞することはあくまで需給ギャップの開きからくるものであり、再び粘着力の高いデフレマインドの再発は何としても避けたいところだ。「デフレが再発するとは見ていないが、予想物価上昇率の低下には注意を要する」との黒田総裁の発言もデフレへの強い懸念がにじみ出たものとみられる。
中川泉
[東京 ロイター]
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