最新記事

日本企業

新型コロナウイルスが蝕む孫正義の夢 10兆円の巨大投資ファンド、投資先の大半に問題抱える

2020年4月26日(日)12時13分

新型コロナウイルスの猛威が続く中、世界的なハイテク帝国を築くという孫正義ソフトバンクグループ会長の夢が崩れ去りつつある。2018年11月、都内で撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

新型コロナウイルスの猛威が続く中、世界的なハイテク帝国を築くという孫正義ソフトバンクグループ会長の夢が崩れ去りつつある。

孫氏が設立した1000億ドル(約10兆7000億円)規模の巨大投資ファンド、「ビジョン・ファンド」が新型コロナ流行の影響で損失を広げているためだ。

ロイターの分析によると、ビジョン・ファンドの資本の半分以上はウイルス感染の拡大で打撃を受けている新興企業やそれ以前から問題が表面化していた新興企業に投じられている。大口投資先が直面する問題は同ファンドの先行きに待ち構えるさらなる試練を示唆している。

「直観」投資が裏目に

主力の投資先である輸送分野では、配車サービスの利用が50%以上減少。ソフトバンクGが出資する新興企業6社は、新規株式公開(IPO)の計画を今年から来年に延期した。

ソフトバンクGはすでにビジョン・ファンドの損失が20年3月期に1兆8000億円に達するとの見通しを示している。孫氏の「直観」で決めた米シェアオフィス大手ウィーワークへの出資は見事なほどに裏目となり、ビジョン・ファンドに多額の出資をした中東の投資家の間に不安が広がっている。

投資先の企業が抱える問題は、多くのケースで新型コロナの流行前から生じていたが、新型コロナに伴う経済崩壊で、同ファンドの投資戦略が抱えるリスクの高さが露呈した。新たに誕生する巨大市場を制覇できるとみて、まだ成果の出ていない企業に巨額の資金を投じる投資スタイルについては、以前から極めてリスクが高いとの指摘が出ていた。

ソフトバンクGの株主であるアセット・バリュー・インベスターズのジョー・バウエルンフロイント最高経営責任者(CEO)は「ビジョン・ファンドは混乱に陥っている。十分な資産査定をせず、派手に金をばらまきすぎた」と指摘した。

孫氏は3年間でソフトバンクをハイテク分野に投資する投資会社に変え、世界最大のレイトステージ(後期)投資ファンドとなるビジョン・ファンドを設立した。

確かに一部の投資は成果が出ている。だが新型コロナの感染拡大で事態が悪化する中、成功例は乏しい。

米カーシェアリングのゲットアラウンド、オンライン住宅販売のオープンドア・ラボ、不動産仲介のコンパスなど、430億ドルを投じている輸送・不動産分野は特に状況が厳しい。

世界各国で移動制限が導入される中、出資先の配車サービス大手4社の市場環境は悪化している。関係筋によると、インドの配車大手オラは、英・豪・ニュージーランドの都市で業務を停止した。

ソフトバンクGとオラのコメントはとれていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北東部ハリコフ州「激しい戦闘」迫る、ウクライナ軍総

ビジネス

NY連銀、新たなサプライチェーン関連指数発表へ 2

ビジネス

米CB景気先行指数、4月は0.6%低下 予想下回る

ワールド

プーチン氏、ゼレンスキー氏の正当性に疑問 戒厳令で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中