最新記事

事件

「ゴーンは無罪の可能性高い」元特捜部検事が語る

2020年1月22日(水)19時05分

日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(写真)の事件で検察側に批判的な元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士は、ゴーン被告と側近だった日産前代表取締役グレッグ・ケリー被告の金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)について、両被告とも「無罪の可能性が高い」と述べ、ゴーン被告の会社法違反(特別背任)に関しては「絶望的に長期間の刑事裁判になっていただろう」との見方を示した。写真はベイルートで8日撮影(2020年 ロイター/Mohamed Azakir)

日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告の事件で検察側に批判的な元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士は22日、ゴーン被告と側近だった日産前代表取締役グレッグ・ケリー被告の金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)について、両被告とも「無罪の可能性が高い」と述べ、ゴーン被告の会社法違反(特別背任)に関しては「絶望的に長期間の刑事裁判になっていただろう」との見方を示した。

金商法違反、刑事事件としての立件は「異常」

郷原氏は同日、日本外国特派員協会で会見。金商法違反が無罪になる可能性が高いとみる理由について、刑事処罰の対象は「重要な事項についての虚偽記載」であり、まだ受け取っていない役員報酬の記載の有無は「重要事項に該当しない」と指摘。逮捕が必要なほど「明白で重大な犯罪ではないことは明らか」で、刑事事件として立件されたのは「異常だ」と批判した。その上で「ケリー氏の無罪判決が出れば、ゴーン氏も無罪であっただろうという結論になる」と語った。

金商法違反と会社法違反の罪で逮捕・起訴され、保釈中だったゴーン被告は昨年12月29日夜に保釈条件に違反して日本を不法出国したとみられ、国籍を持つレバノンに逃亡。日本はレバノンと容疑者の身柄引き渡しに関する条約を結んでおらず、レバノンも国内法で自国民を他国に引き渡さないことを定めている。このため、身柄引き渡しが実現する見通しはなく、ゴーン被告の裁判は開かれない可能性が極めて高い。

一方、ゴーン被告のみ起訴されている会社法違反については「証拠が十分にないまま検察が逮捕・起訴したことに問題がある」と指摘。「証拠がないので有罪か無罪かはっきりしないまま、公判が長期化する可能性が高い」と述べた。

ゴーン被告は8日にレバノンで開いた会見で「2つの罪状の公判が同時に進行できない」ことや、当初は今年9月に特別背任の公判開始と聞いていたのに検察の意向で「2021年以降と言われた」こと、妻や子供に会えないことが出国を決意した理由と説明していた。

問題の背景に前近代的な日本の刑事司法制度

郷原氏は、ゴーン被告の不法出国は「犯罪行為」だが、今回の事件は検察が加担・日本政府も関与したクーデターの可能性が高いこと、ゴーン氏の犯罪事実の根拠が薄弱なこと、関与者への措置・処罰の不公平感があること、無実を訴える被告人は身柄拘束が続くという「人質司法」など日本の刑事司法制度の前近代性が問題の背景にある、との認識を示した。

郷原氏はゴーン事件に関する書籍を今年4月に出版する予定で、昨年11月から12月27日までに計10時間以上、ゴーン氏のインタビューを実施。しかしその後、ゴーン氏は不正出国し、レバノンへ逃亡したことから、出版計画は白紙となった。

(白木真紀)

[東京 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200128issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月28日号(1月21日発売)は「CIAが読み解くイラン危機」特集。危機の根源は米ソの冷戦構造と米主導のクーデター。衝突を運命づけられた両国と中東の未来は? 元CIA工作員が歴史と戦略から読み解きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中