最新記事

金融政策

金融政策の「劇薬」マイナス金利 その仕組みと落とし穴

2019年8月19日(月)15時54分

マイナス金利政策はかつて、欧州や日本のような慢性的低インフレ経済だけの政策とみなされていたが、不本意な通貨高と戦う他の一部中央銀行にとっても魅力的な選択肢となりつつある。写真は都内の日銀本店。1月23日撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)

マイナス金利政策はかつて、欧州や日本のような慢性的低インフレ経済だけの政策とみなされていたが、不本意な通貨高と戦う他の一部中央銀行にとっても魅力的な選択肢となりつつある。

マイナス金利政策の仕組みと落とし穴についてまとめた。

◎一部中銀がマイナス金利を採用した理由

2008年のリーマン・ショックに端を発した金融危機と戦うため、多くの中銀は政策金利をゼロ近くまで引き下げた。10年後の今も大半の国々では成長率が低く、金利は低水準にとどまっている。

追加利下げの余地が限られるため、一部の主要中銀はマイナス金利政策などの非伝統的手段に踏み切った。実施しているのはユーロ圏、スイス、デンマーク、スウェーデン、日本。

◎マイナス金利政策の仕組み

金融機関は中銀に預けた超過準備に対して利息の支払いを義務付けられる。中銀は、こうして資金をため込む金融機関を罰すれば、金融機関は貸し出しを増やすと期待する。

欧州中央銀行(ECB)は2014年6月にマイナス金利を導入し、中銀預金金利をマイナス0.1%に引き下げた。現在はマイナス0.4%まで下がっているが、景気のリスクが高まっているため、市場はECBが9月に追加利下げを実施すると予想している。

日銀は円高による景気への悪影響に対処するため、16年1月にマイナス金利を採用した。超過準備の一部についてマイナス0.1%の金利を課している。

◎支持派と反対派

マイナス金利政策の支持派は、借り入れコストの低下につながるだけでなく、他の通貨に比べて投資上の魅力を減らすことにより、自国通貨を安くするのに役立つと主張している。通貨が下がれば輸出競争力が高まる上、輸入コストの上昇を通じて物価が押し上げられる。

しかしマイナス金利政策はイールドカーブ(利回り曲線)全体に下押し圧力をかけ、金融機関の利ざやを圧迫する。超低金利の長期化によって金融機関の体力があまりにも弱まれば、貸し出しが控えられ景気に悪影響が及ぶ可能性もある。

中銀によるマイナス金利の深堀りには限界もある。預金者は現金保有を選ぶことにより、銀行預金にマイナス金利を課されるのを回避できるからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中