FRBやECBなど世界が日本に注目? 日銀の低金利政策は特効薬か
日本では、一部で成果を上げている。
日銀がYCCによる誘導目標設定の対象とした10年物国債の金利は、目標のゼロ%付近でほぼ推移している。小売売上高は過去31カ月間、1カ月だけを除いて前年比上昇している。日本では1990年代以降で初めてのことだ。
だがインフレ率は、日銀が目標とする2%には遠く届かず、一部ではYYCによってむしろインフレ目標の達成が遠のいたとの懸念も出ている。
元日銀理事でみずほ総合研究所・エグゼクティブエコノミストの門間一夫氏は、長期金利を低く抑える政策を長く続けること自体が、「かえって期待インフレ率を下げてしまうとの議論もある」と指摘する。
YCCの弊害
長期金利の抑制は、FRBに別の弊害を招く可能性がある。金利が急騰した際に巨額の国債買い入れを迫られることになり、量的緩和策に対する各方面からの批判が再燃しかねない。
日銀は2018年7月、FRBの利上げで世界的に金利が上昇し、10年物金利がじりじりと上がったことを受け、利回り0・11%で長期国債を無制限に買い入れる「指値オペ」を実施することを余儀なくされた。
日銀にとってさらに困難なのは、金利を一定の水準以上に維持することだ。低迷する金利を引き上げるために国債の買い入れを減らし過ぎれば、インフレ目標が達成されるまでお金を市場に支給し続けるという公約と矛盾するからだ。
FRBが今月の連邦公開市場委員会(FOMC)で金利を引き下げる見通しが強まり、日本を含め世界中で金利が低下した。日本の10年物国債の金利は先月、この3年で最低水準のマイナス0.195%に低下した。
「長期金利が相当長い期間マイナスに沈んだ状態が続いた場合、YCCは難しい局面を迎えるかもしれない」と、日銀の政策議論に詳しい関係筋は予測する。
ECBとFRBの間
FRBは2011年と12年に、資産規模を変えずに短期債を減らして長期債を増やす「オペレーション・ツイスト」という手法を試している。これにより、不動産ローンなどの借り入れコストが低下し、実際にインフレ率も一時上向いた。
だが、長期金利に再び明示的に誘導目標を設けることには政治的困難が伴う。中銀の「やり過ぎ」や市場介入への懸念が再び強まるためだ。
ECBにとっても、YCCは別の理由から実現が難しい。
ユーロ圏には共通の債券がないため、ECBは域内19カ国の国債のうちどれを対象にするかを決めなければならなくなるのだ。
もしECBが加盟国間の国債の金利差を縮めたり、誘導目標の対象にしようとすれば、財政規律の緩い国を守ったとの批判を浴びかねない。
FRBにとって鍵となるのは、米国債市場にどの程度の影響力を持ちたいか、あるいは持ち得るのか、という問題だ。
アナリストは、日本国債の市場における巨大な存在感が日銀の成功の鍵のひとつだと指摘する。成長率を回復軌道に乗せるため何年間も大量に買い入れた結果、日銀は発行済み国債の約45%を保有するに至っている。
対照的にFRBは、市場性のある米国債15兆9000億ドル(約1700兆円)のうち、現在13%程度しか保有していない。
日銀の政策に詳しい別の関係筋は、大量の国債保有によって「日銀は市場をかなりコントロールしており、それがYCCを相当強力なツールにしている」と指摘した。
(木原麗花記者、Howard Schneider記者、Balazs Koranyi記者、翻訳:山口香子、編集:久保信博)
ロイター]


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