韓国より低い日本の最低賃金 時給1000円払えない企業は潰れるべき
最低賃金引き上げへの反対論は、「極めて浅はかで、短絡的なものが多すぎる」 AH86-iStock
オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。 退職後も日本経済の研究を続け、『新・観光立国論』『新・生産性立国論』など、日本を救う数々の提言を行ってきた彼が、ついにたどり着いた日本の生存戦略をまとめた『日本人の勝算』が刊行されて半年。「最低賃金引き上げ」というアトキンソン氏の主張が現実のものになりつつある。
今回の参院選も、自民党が最低賃金1000円、立憲民主党が1300円、共産党が1500円を掲げ、まさに「最低賃金引き上げ選挙」と言っても過言ではない状況だ。
しかし一方で、最低賃金引き上げに対して強硬な反論も見られる。今回は、政府の方針をいち早く牽制した日本商工会議所の主張を検証する。
「ミクロ企業の集約」こそ日本復活のカギ
『日本人の勝算』を発表してから約半年が経ちました。
やや手前みそになってしまいますが、本書の発表以降、世間でも次第に、日本が直面している人口減少危機に関して理解が深まっているように感じます。政府も、金融緩和などのごまかし的な政策では人口減少時代に対応できないことに気づき、日本経済の構造問題に取り組まないといけないと認識を新たにしているようです。
ご存じのように、日本政府は長年にわたってゼロ金利政策を実施し、日銀による異常ともいえる金融緩和を実行してきました。さらに繰り返し補正予算を出したりと、経済対策に取り組みました。しかし、日本経済はいまだ完全回復には程遠い状況にあります。それによって、日本は世界一の借金国になりました。
日本政府は経済の構造問題にメスを入れることなく、一方で次から次へと企業に猶予を与えることで、経済が回復することを期待してきました。その間、実に30年です。
しかし、政府の願いもむなしく事態は好転せず、ついに高齢化・人口減少に耐えるための根本的な経済政策を実施せざるをえない状況に追い込まれてしまいました。企業に猶予を与えても、状況はよくならないどころか、悪くなるばかりだということが明らかになりました。
日本経済の構造的な問題の根幹は、給料が安すぎることです。そして、その裏にあるのが、日本では社員20人未満のミクロ企業で働く労働人口の比率が、途上国並みに高いという事実です。これに尽きます。
生産性を向上させたいなら、こういったミクロ企業を集約させるしか方法はありません。逆にミクロ企業の合併・統合を促すことで、長かった日本の衰退に、やっと歯止めがかかるのです。
なぜ最低賃金引き上げが必要なのか
人口減少と高齢化が同時に進んでも耐えられる産業構造を考えると、日本では労働力を集約させ、規模の経済を追求できるように、企業の規模を拡大させるしか方法はありません。
人口が減少する中で企業の規模を拡大することは、企業の大量合併・統合が不可欠であることを意味します。人口増加時代、人口増加以上に企業の数を増やしたので、これからは企業の数を、激減する生産年齢人口以上の割合で減らしていかなくてはいけないのです。
企業の大量合併・統合を実現するには、当然、当事者となるミクロ企業の経営者を動かす必要があります。そして彼らを動かすには、最低賃金を毎年5%ずつ引き上げるのが最も効果的だと、私は分析しています。
なぜかというと、国際的に非常に低い日本の最低賃金に安住している生産性の低い企業が、日本全体の給与水準を下げ、全体に悪影響を及ぼしているからです。
こういう企業では、優秀な人材が真面目に働いているにもかかわらず、不適切に安い給料しか払っていません。なぜなら生産性が低すぎるので、正当な賃金を支払うと企業として存続できないのです。逆に言うと、不当に低い給料しか払っていないからこそ、なんとか企業として存続できているとも言えます。
人口が増加して、国に余裕があるのであれば、こういった企業を放置してもいいでしょうが、人口が減り、社会保障負担が増えている以上、もはや放置するという選択肢はありません。こういう企業を野放しにしておくべきではありません。不当に安い給料は、即時引き上げさせるべきなのです。
最低賃金を上げることはあくまでも手段にすぎません。生産性の低い会社を動かすことが目的であることを理解する必要があります。