最新記事

日本経済

韓国より低い日本の最低賃金 時給1000円払えない企業は潰れるべき

2019年7月11日(木)18時00分
デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長)※東洋経済オンラインより転載

日本商工会議所が最賃引き上げに反対する3つの理由

しかしながら、このように不当に低い給料しか払わない企業群を守ろうとする圧力団体が日本には存在します。その名を日本商工会議所といいます。

日本商工会議所は、経済財政諮問会議が提言した最低賃金の1000円への引き上げに猛反対しました。ここ数年3%だった引き上げ率を5%にすることに対しても、反対の意向を示しています。

彼らは、政府に対して要望を出すと同時に、野党各党にも働きかけを行っています。さらには、複数の自民党議員の地元事務所に要望書を持ちこみ、プレッシャーを与えるなど、全国で組織をあげて徹底的に反発しているようです。立場上の形式的な反対ではなさそうです。

要望を受けた国会議員から私が直接聞いたところによると、日本商工会議所が最低賃金引き上げに反対する理由は、主に以下の3つだそうです。


(1)最低賃金がそれほど高まると、倒産する中小企業が続出する
(2)従業員の雇用を守るためには、長期にわたって安定的な経営をすることが重要
(3)そもそも、賃金は企業の経営者が判断するべきで、最低賃金といえども政府の介入は最小限にするべき

いずれも、私には極めて浅はかで、短絡的な議論にしか見えません。順番に考えていきましょう。

「最低賃金1000円では苦しい」と言っているのは誰か

そもそも、仮に日本の最低賃金が1000円になったとしても、国際的に見るとその水準は非常に低いレベルでしかありません。購買力調整をしても、その結論は変わりません。

toyokeizai190711_wages.jpg

「日本人の技術はすばらしい」「日本人の労働者は勤勉だ」「手先が器用」「人材評価は非常に高い」「職人気質」。

そんな日本人の労働者の質の高さを自慢する声は、今でもそこら中から聞こえてきます。

もちろん日本商工会議所も発言源の1つです。

「最低賃金1000円」を払えない人に経営者の資格はない

そんなに働いている人の自慢をするのなら、労働者に対して適切な対価を払うべきです。たかだか1000円の最低賃金が払えないというのは、大きな矛盾です。

そもそも、最低賃金が1000円になったとして、年間の労働時間が2000時間だとすると、年収はたかだか200万円です。以前の記事でもご紹介しましたが、日本人の労働者の質は世界的にも大変高く評価されています。そんな質の高い人間を雇う賃金がたったの200万円という、このことの異常さを看過してはいけません。

とくにこれからの40年間は、高齢者が増える一方です。その間、生産年齢人口の人たちは、自分の生活費のみならず、高齢者の年金・介護・医療費も負担しなくてはいけません。その金額はどんなに安く見積もっても、高齢者1人当たり、生涯で6000万円になります。

今後、生産年齢人口は減りますが高齢者は減らないため、1人の高齢者を支える現役世代の数は次第に1人に近づいていきます。年収200万円で40年間働いても賃金総額は8000万円にしかならないのに、6000万円負担するというのは、どうやっても計算が合いません。

一方、すべての中小企業を守るべきだという意見には説得力がありません。日本では、多くの中小企業で経営者が公私混同を繰り返し、法人税は払わない、従業員にはまっとうな給料を払わないという、蛮行が横行しています。

中小企業の多くは、法人税を払わないことを「技術」、払うのは「バカ」と考えているようです。法人税を払わない、払ったことすらない中小企業の割合を見れば、その傲慢さがわかります。「優秀な人材をできるだけ安く、多く働かせることが社長の腕の見せどころだ」とうそぶく社長も数多くいます。

彼らの蛮行により、所得税も消費税も、本来支払われる額よりずっと少なくなってしまっています。彼らを守ることは、国全体にとってなんらメリットがないのです。

断言しますが、時給1000円の最低賃金も支払えないような企業の経営者には、会社を経営する才能も能力もありません。無能です。自分で作った商品をそこまで安売りしないと買ってもらえないならば、そんな会社は倒産したほうがマシです。

過激な物言いに聞こえるかもしれませんが、これは正論です。なぜかというと、人手不足だからです。

日本には世界的にも名の通った立派な会社がたくさんあります。それらの企業はもちろん、国に大きな利益をもたらしています。そういう国益に貢献している企業でさえ、今後は人手不足に苦しむことが容易に予想されているのが現実です。

ですから、1000円の最低賃金すら支払えないような企業で働いている労働力は、早期に解放してもらい、より生産性の高い企業に移ってもらったほうが、国全体にとってもプラスですし、働いている人たちのためにもなります。

これは誰の目から見ても明らかに経済合理性のある政策ですが、これを実行されると、困る人たちがいます。それが社長たちです。日本商工会議所が最低賃金の引き上げに反対しているのは、中小企業の社長たちの声を代弁しているからです。

1000円の最低賃金すらも払えないほど才能のない、存続する意義の乏しい企業の経営者が「社長」と名乗り続けるために、不適切に安い賃金で「労働者をこき使わせてください」と政府に訴えているにすぎないのです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツGDP、25年は市場予想通り0.2%増 景気

ビジネス

中国人民銀、各種構造的金融政策ツール金利を0.25

ワールド

IMF専務理事がキーウ訪問、ゼレンスキー氏らと会談

ワールド

トランプ氏の移民取り締まり、共和党支持者の意見分か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広がる波紋、その「衝撃の価格」とは?
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    イランの体制転換は秒読み? イラン国民が「打倒ハ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 9
    年始早々軍事介入を行ったトランプ...強硬な外交で支…
  • 10
    飛行機内で「マナー最悪」の乗客を撮影...SNS投稿が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 8
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中