FCA統合撤回で露呈、フランス「介入主義的」産業政策の限界
6月6日、欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と仏ルノーの統合案が突然撤回されたことで、図らずもフランス政府の介入主義的な産業政策の限界があらわになった。写真は3日、仏ニースで撮影(2019年 ロイター/Eric Gaillard)
欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と仏ルノーの統合案が突然撤回されたことで、図らずもフランス政府の介入主義的な産業政策の限界があらわになった。こうした政策は常に、政治的な要求と冷厳な経済合理性をうまく釣り合わせるのが難しい。
FCAは、統合案を撤回したのはルノーの大株主(持ち分15%)であるフランス政府の姿勢に原因があるとしている。
フランス政府は、FCAの統合案がうまくいかなかったのはルノーと日産自動車の連合維持にばかり気を取られていたためだと指摘する。だからこそフランス経済・財務省は、交渉を進める前提として日産の支持を求めたのだ。同省のある高官は「統合撤回は政治介入とは無関係だ」と断言した。
しかしフランス国立科学研究センター(CNRS)のエコノミスト、エリー・コーエン氏は、フランス政府がこれまでと同じように、統合による経費節減を促すと同時に雇用を守ろうという矛盾を追求したとの見方を示した。
政治的な懸念の存在は、短期的な痛みをもたらすリスクがどんな長期的なメリットをも一掃してしまいがちなことを意味する。コーエン氏によると、結果として政治的な懸念に基づいたフランス政府の決定が、ルノーを行き詰まっていた日産との連合に縛り付けてしまったという。
損なわれる競争力
フランス政府は、今後も戦略的な国内産業が危機に直面した場合に自らの発言力を放棄しようという気配は見えない。
ルメール経済・財務相は議会で「われわれいかなる産業再編の機会にも前向きである姿勢は変わらないが、ルノーと国家の利益を確保するため、性急には行動しない」と強調した。
マクロン大統領には、ルノーのような国家を代表する企業が絡む大型ディールが思うようにならなかった場合、その政治的リスクを無視する余裕はない。
極右勢力からの批判や「黄色いベスト」の抗議運動にさらされているマクロン政権は、既に米ゼネラル・エレクトリック(GE)による人員削減計画に伴う東部地域での雇用維持に苦戦を強いられているからだ。
2014年にアルストムのガスタービン事業を買収したGEは当時、フランス政府に雇用創出を保証していたが、その後需要減退のため約束の撤回を迫られ、人員削減を余儀なくされている。