最新記事

世界経済2019:2つの危機

2019年世界経済「2つの危機」 それでもアメリカは独り勝ちする

ECONOMIC HEADWINDS PICKING UP

2019年1月8日(火)16時20分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌記者)

COLIN DEWAR-SHUTTERSTOCK

<貿易戦争で中国が弱り、EUが求心力を失うなか、「今はまだまし」な米経済は独り勝ちを決め込むが......>

※2019年1月15日号(1月8日発売)は「世界経済2019:2つの危機」特集。「米中対立」「欧州問題」という2大リスクの深刻度は? 「独り勝ち」アメリカの株価乱降下が意味するものは? 急激な潮目の変化で不安感が広がる世界経済を多角的に分析する。

◇ ◇ ◇

国家間の経済競争は駆けっこというより、ミス・コンテストに似ている。どの国の経済も美しい「見掛け」をアピールするのに必死だ。新しい年が始まったばかりだが、2019年のミス・ワールドは既に決まったようなもの。そう、今年も昨年に続き栄冠に輝くのはアメリカだろう。

米経済の現状は決して良くない。昨年末から株式市場は大荒れに荒れているし、所得格差や債務問題は未解決のまま。トランプ政権の経済政策は迷走を続け、中国との貿易戦争が凶と出るのは明らかだ。

それでも「各国経済の荒れ模様と比べたら、アメリカは一番ましだ」と、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のアダム・ポーゼン所長は言う。「米経済もどんどん悪化しているが、まだ優位にある」

ドナルド・トランプ米大統領の暴走で今年は世界経済がさらに大きな痛手を受けると、ポーゼンはみている。「設備投資は今以上に冷え込むだろう。アメリカも例外ではないが、それでも当面は相対的な優位を保てる」

確かに、競争相手は目を覆うばかりのひどい状況にある。まず危ぶまれるのは欧州経済だ。イギリスはEU離脱で袋小路に追い込まれ、EUはイタリアの規律なき予算案に手を焼くなど、またもや存続の危機に陥っている。

中国も危機の火種になりかねない。アメリカとの貿易戦争の激化で経済成長は失速。中国企業の過剰債務という爆弾は今年中に爆発する危険性があると、多くの専門家が懸念している。

そうしたなかでアメリカは「成長率、景気拡大の持続、失業率、インフレ圧力の抑制と、どれを取っても悪くない」と、IMF調査局のジャン・マリア・ミレシフェレッティ副局長は言う。それに比べ、欧州経済は「予想以上に急速に成長率が低下している」。さらに米経済は「完全雇用の状態では前例のない、非常に強力な景気刺激策」に支えられていると、ミレシフェレッティは指摘する。

トランプはミス・ユニバースの共同運営権を保有していたこともあり、ミスコンには詳しい。米経済が栄冠を手にするのは「経済の奇跡を起こした」大型減税のおかげだと主張。手柄を独り占めしようとしている。

だがトランプは既に好調だった経済に減税と規制緩和でバブル気分を吹き込んだだけで、その功績はほぼゼロ。それどころか貿易戦争を仕掛けて、逆風を起こしつつある。

トランプはここ数十年で最も幸運な大統領かもしれない。前任者が8年間の任期中にせっせとまいた種が実を結ぶ頃に就任し、収穫する立場になれたからだ。オバマ政権の政策のおかげで米経済は順調に回復、今夏にも景気拡大の最長記録を樹立する勢いだ。

magSR190108-chart.png

本誌19ページより

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン

ワールド

国際援助金減少で食糧難5800万人 国連世界食糧計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中