最新記事

経営

日本企業はなぜ「お雇い外国人」に高額報酬を払うのか

2018年6月21日(木)18時05分
松野 弘(千葉大学客員教授)

もうひとつの「グローバル化論」

ソニーのグローバル化路線を間違った方向で進めた出井・ストリンガー両元CEOの失敗は、日本のイノベーション・パイオニア企業であるソニーの経営資源の価値を熟知し、うまく活かすことができなかったことに尽きる。

日本的経営のよさは「一人のヒーロー的リーダー」(トップダウン型のカリスマ経営者)ではなく、「協調的協働型経営」(ボトムアップ型の機能的な集団主義的経営)によって、企業業績を伸ばしていくことにある。経営陣と従業員が一体となって目標を達成していくという、日本的集団主義の「信頼の絆」である。

「ソニーの凋落における問題は、求められる戦略と経営能力との間のミスマッチと経営責任の曖昧性であり、それはまた他の日本の製造業に通じる問題でもある」という指摘は至言だ(米倉誠一郎「ソニー凋落に見る日本企業の経営者問題」nippon.com、2014年)。

グローバル化に関する議論で多くの人々が勘違いしているのは、世界のさまざまな国々と経済交流や文化交流を通じて、相互理解・相互協力のための「絆」をもつことが「グローバル化」と思っていることである。

「グローバル化」(Globalization)という言葉は、かつて、米国の巨大企業が多国籍企業として世界市場を獲得するために、アメリカの価値観で経済活動を推進していくこと(「アメリカン・スタンダード」=アメリカ型の標準マネジメント)を意味していた。

したがって、英語でコミュニケーションを行い、アメリカ製品を購入して、アメリカ的な消費社会を満喫していくような方向へと世界各国の人々を「同化」させることが「グローバル化」の意図なのである。その先兵が「外国人役員」という名の「お雇い外国人」なのである。極論すれば、アメリカ標準で、その国の政治・文化・経済を同化させることといってよいだろう。

もう一つの「グローバル化」とは、「アメリカン・スタンダード型のグローバル化」ではなく、それぞれの地域の資源(ヒト・モノ・カネ・ノウハウ・情報)を地域風土(国民性・民族性・固有文化等)に合わせて活用していくという「ローカル・グローバル化」である。

いわば、経済活動における「分権化」であり、「主体性の確保」である。ボトムアップ型経済のグローバル化の積み重ねによって、ローカル企業がグローバル化することで、ハイブリッドな製品・サービスを世界市場に提供できるような「もう一つのグローバル化」を実現していくことができるだろう。

最近の日本の地方中小企業が特産品(日本酒・織物・陶芸品等)に関する情報発信を、東京という国内の大消費地だけではなく、世界の市場に向けて展開していることは注目に値する。これが本当の「ローカル・グローバル化」といえるだろう。

[筆者]
松野 弘
博士(人間科学)。千葉大学客員教授。早稲田大学スポーツビジネス研究所・スポーツCSR研究会会長。大学未来総合研究所所長、現代社会総合研究所所長。日本大学文理学部教授、大学院総合社会情報研究科教授、千葉大学大学院人文社会科学研究科教授、千葉商科大学人間社会学部教授を歴任。『現代社会論』『現代環境思想論』(以上、ミネルヴァ書房)、『大学教授の資格』(NTT出版)、『環境思想とは何か』(ちくま新書)、『大学生のための知的勉強術』(講談社現代新書)など著作多数。

ニューズウィーク日本版 トランプショック
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月22日号(4月15日発売)は「トランプショック」特集。関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中