労働者の限界生産性を忘れていないか──「日本的経営」再考
人を活かす経営が日本企業の基本理念
年功賃金制度の中で「能力と業績との関係」を示す言葉として、「限界生産性」がある。これは従業員が20代~30代の若い頃には、労働生産性よりも賃金(給料)が低いのに対して、勤続年数や職務経験が豊富になってくる40代以上になると、労働生産性よりも賃金(給料)が高くなるという日本独特の賃金システムのことである。
若い頃は、自分の能力を過信して「能力主義」を声高に叫ぶが、人間はだれでも年を重ねるのである。歳をとれば、若い頃のようにエネルギッシュには働けない。40歳以上になって、家族をかかえ、生活費が大変な時にそれ相応の報酬が出ることは企業の安定化にとっていいことである。
その意味では、日本的経営は企業の活性化や発展に寄与しているのである。労働対価としての給料の高さに目移りして、外資系企業に転職した友人を数多く見てきたが、こうした企業では、成果があがらなければ降格か、クビのいずれかである。
企業の財産はすぐれた製品と人材である。これらを企業経営として、中・長期的に安定化させてきたのが、日本の企業であり、その企業を支えてきたのが「日本的経営」と呼ばれている日本独特の経営スタイルなのである。
本格的なグローバル化時代の企業のあり方として、人を活かす経営を基本理念としている「日本的経営」をもう一度、考え直していく必要があるだろう。
[筆者]
松野 弘
博士(人間科学)。千葉大学客員教授。早稲田大学スポーツビジネス研究所・スポーツCSR研究会会長。大学未来総合研究所所長、現代社会総合研究所所長。日本大学文理学部教授、大学院総合社会情報研究科教授、千葉大学大学院人文社会科学研究科教授、千葉商科大学人間社会学部教授を歴任。『現代社会論』『現代環境思想論』(以上、ミネルヴァ書房)、『大学教授の資格』(NTT出版)、『環境思想とは何か』(ちくま新書)、『大学生のための知的勉強術』(講談社現代新書)など著作多数。
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