最新記事

日本企業

「コレはないわ」な丸焼き機をパナソニックが製品化した理由

2018年2月2日(金)16時55分
山田雄大(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

ユニークな商品だけあって、開発の苦労話は語り尽くせないほどある。では、採算面から見た商品化へのハードルをどうやって越えたのか。

意外なことに、商品化にゴーサインを出す立場にあった調理商品部の松田昇部長は「ビジネス的にはやれるという確信があった」と振り返る。

すでに事前のユーザー調査で手応えを感じていた。回転焼き専用機ではニーズが限られるが、4つの機能を盛り込めば、5万円程度の高値でもある程度は受け入れられることも確認できていた。

もちろん販売価格で5万円程度に押さえ込むのは容易でなかった。これまでになかった商品であるため、ほかの商品との共通部品はほとんどない。大半の部品で専用の金型を作る必要があったからだ。

「コスト面の工夫は企業秘密」と松田部長は多くを語らないが、部品材料や構造の見直しなど可能なかぎりコスト削減の努力をした。金型費用も含めた開発費は生産台数で割るため、コスト削減にも販売台数がカギとなる。販売に自信を持てたことが商品化に踏み切れた大きな理由だ。

toyokeizai180202-5.jpg

アプライアンス社の松田昇・調理商品部長(左)と石毛伸吾氏

創業100周年記念の波に乗る

2018年3月に創業100周年に迎えるパナソニック。昨年8月からアプライアンス社でも100周年記念の販促キャンペーンを開始している。

100周年にふさわしい特徴ある家電を打ち出すという全社的な空気感があったことに加え、パナソニックの家電全体を取り上げるCMが作られるなど、ボリュームゾーンではないロティサリーグリルのような商品にも脚光が当りやすいという追い風もあった。

商品のデキの良さが前提にあったことは間違いない。本間哲朗アプライアンス社社長(パナソニック専務執行役員)も参加した社内説明会でも「調理して試食してもらうと、ほとんど全員がOKを出した」(松田部長)。

ここまで販売は好調だが、目新しさに飛びつく層が一巡した後、売れ続けるかどうかはまだわからない。「投資回収ができないと事業としてはダメ。そのためにはいまの好調な販売を継続しないといけない」(松田部長)。石毛氏は「ロティサリーだけでなく、4機能の充実を伝えていくことで長く売っていく」と力を込める。いずれにしろ、勝負はこれからだ。

「商品企画に携わるようになって以降、むしろ新しいモノを求められてきた」と石毛氏は証言する。調理家電では、1987年に発売したホームベーカリーなど、パナソニックが先鞭をつけた商品もある。最近なら2015年9月に発売した魚焼き機に燻製機能を付けた「スモーク&ロースターけむらん亭」といったユニークな商品もある。

パナソニックの家電は面白い。そう当たり前のように言われる日が来るかもしれない。

パナソニックの会社概要は「四季報オンライン」で

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米との鉱物資源協定、週内署名は「絶対ない」=ウクラ

ワールド

ロシア、キーウ攻撃に北朝鮮製ミサイル使用の可能性=

ワールド

トランプ氏「米中が24日朝に会合」、関税巡り 中国

ビジネス

米3月耐久財受注9.2%増、予想上回る 民間航空機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中