オフィスデザインに訪れた「第四の波」とは何か
デジタル技術を使って人を追跡するネットワークド・オフィス
第三の変化は2000年代に入ってから起きました。「ネットワークド・オフィス」の台頭です。
人々はスマートフォンやタブレットを活用して、いつでもどこでも仕事ができるようになりました。ワークスタイルの変化はオフィス設計の性質も劇的に変えます。それが、オフィス内のヒトとモノをネットワークでつなぎスマート化するネットワークド・オフィスを生んだのです。
デスクスペースは狭くなる一方で、広いホスピタリティスペースが確保されるようになりました。それもバーやホテルラウンジのようなラグジュアリーな空間です。というのも、ネットワークド・オフィスでは、単にデスクに座るためでなく、人と会うためにオフィスにやってくるからです。モバイル端末があれば、どこからでもデータにアクセスできるわけですから。
世界の人々とテレビ電話会議をするために大きなスクリーンも導入されていますね。これからはIoTですべてがつながる時代です。オフィスもそれに見合った変化を遂げているわけです。
このオフィスの例としては、アムステルダムにあるデロイトの新社屋、通称「ザ・エッジ」が挙げられます。非常にハイテクな建物で、何千個ものLED照明がインターネットとセンサーにつながって建物内の人々の動きを感知・追跡できます。ネットワークオフィスでは、人と人との信頼が希薄になります。テーラリスト・オフィスでは人が人を監視していましたが、ネットワークド・オフィスではデジタル技術を使って人を追跡しているわけです。
パリにあるシュナイダーエレクトリックのザ・ハイブ*** も一例です。エネルギー効率と快適さを両立するビル管理システムです。
ハイテク企業がネットワークド・オフィスにいるとは限らない
ソーシャル・デモクラティック・オフィスとネットワークド・オフィスの両方の特徴を備えたものとしては、グーグル**** やフェイスブックのオフィスがあります。
グーグルのオフィスはどちらかというと、ソーシャル・デモクラティックな要素が強いと思います。グーグラー達を大事にして、みんなが集まる場を作ろうとしていることの表れでしょう。また、グーグルでは社員の飲食に重点を置き、1日に100,000食を作ります。彼らはデータ分析に多くの時間を費やすので、社員が建物から出なくても充実した食生活を送れるように配慮しているのだと思います。
そういう意味では、ハイテク企業より経営コンサルティング企業の方がネットワークド・オフィスを形成しやすいといえます。例えば、アクセンチュアのオフィスはどちらかといえばネットワーク型ですね。コンサルタントには社内コミュニティに参加するより、表に出て稼いでほしいからです。逆にソフトウェア開発者やプログラマーはコミュニティ参加志向が強い。皮肉なことに、ハイテク企業だからといって必ずしもネットワークド・オフィスであるとは限らないんです。
オフィスというひとつの容れ物ではなく、スペースのネットワークを持つという考え方
ネットワークド・オフィスは企業空間の縮小と柔軟な空間の拡大という側面を持っています。いつでもどこでも仕事ができる状況が整い、大きなオフィスを人でいっぱいにする概念は時代遅れになりつつあります。その流れで大企業は一部の社員をコワーキングオフィスに配置するようになりました。建物を長期契約で借りて内装にお金をかける代わりに、柔軟に使えるスペースをたくさん用意するのです。
そうすると、例えば短期間のプロジェクトでは技術チームをコワーキングスペースに置き、終わったら別の場所に移動させるといった自由度の高いオフィスデザインが可能になります。オフィスというひとつの容れ物ではなく、スペースのネットワークを持つという考え方です。グーグルのキャンパスロンドンやSAPがシリコンバレーにオープンしたカフェ「HanaHaus」などに見られるように、自社オフィスを持っていても外部の共同スペースを利用する現在のトレンドは、こうした発想が軸にあると考えられます。
そもそもソーシャル・デモクラティック・オフィスは、より人間的な職場環境を提供し、コミュニティを創造するという高い理想を持っていました。しかしこれが希釈され、概念だけを使って平凡でつまらないオフィスが多く作り出され、低いレベルのミッションと低いサービス提供の企業キャンパスが増えてしまったという経緯があります。
コワーキングスペースの中には高度なサービスを提供しているものがあり、それらはソーシャル・デモクラティック・オフィスの欠点を補います。動線がたくみに設計され、素晴らしいコーヒーがあって、有能なコンシェルジュがいて、3Dプリンタのサービスを提供していたりする。さらには、テクノロジーのスタートアップやベンチャーキャピタルを集めるといった高度なミッションを持つものもあります。それはビジネスの推進力になり得ます。