最新記事

インタビュー

オフィスデザインに訪れた「第四の波」とは何か

2017年10月26日(木)18時36分
WORKSIGHT

デジタル技術を使って人を追跡するネットワークド・オフィス

第三の変化は2000年代に入ってから起きました。「ネットワークド・オフィス」の台頭です。

人々はスマートフォンやタブレットを活用して、いつでもどこでも仕事ができるようになりました。ワークスタイルの変化はオフィス設計の性質も劇的に変えます。それが、オフィス内のヒトとモノをネットワークでつなぎスマート化するネットワークド・オフィスを生んだのです。

デスクスペースは狭くなる一方で、広いホスピタリティスペースが確保されるようになりました。それもバーやホテルラウンジのようなラグジュアリーな空間です。というのも、ネットワークド・オフィスでは、単にデスクに座るためでなく、人と会うためにオフィスにやってくるからです。モバイル端末があれば、どこからでもデータにアクセスできるわけですから。

世界の人々とテレビ電話会議をするために大きなスクリーンも導入されていますね。これからはIoTですべてがつながる時代です。オフィスもそれに見合った変化を遂げているわけです。

このオフィスの例としては、アムステルダムにあるデロイトの新社屋、通称「ザ・エッジ」が挙げられます。非常にハイテクな建物で、何千個ものLED照明がインターネットとセンサーにつながって建物内の人々の動きを感知・追跡できます。ネットワークオフィスでは、人と人との信頼が希薄になります。テーラリスト・オフィスでは人が人を監視していましたが、ネットワークド・オフィスではデジタル技術を使って人を追跡しているわけです。

パリにあるシュナイダーエレクトリックのザ・ハイブ*** も一例です。エネルギー効率と快適さを両立するビル管理システムです。

ハイテク企業がネットワークド・オフィスにいるとは限らない

ソーシャル・デモクラティック・オフィスとネットワークド・オフィスの両方の特徴を備えたものとしては、グーグル**** やフェイスブックのオフィスがあります。

グーグルのオフィスはどちらかというと、ソーシャル・デモクラティックな要素が強いと思います。グーグラー達を大事にして、みんなが集まる場を作ろうとしていることの表れでしょう。また、グーグルでは社員の飲食に重点を置き、1日に100,000食を作ります。彼らはデータ分析に多くの時間を費やすので、社員が建物から出なくても充実した食生活を送れるように配慮しているのだと思います。

そういう意味では、ハイテク企業より経営コンサルティング企業の方がネットワークド・オフィスを形成しやすいといえます。例えば、アクセンチュアのオフィスはどちらかといえばネットワーク型ですね。コンサルタントには社内コミュニティに参加するより、表に出て稼いでほしいからです。逆にソフトウェア開発者やプログラマーはコミュニティ参加志向が強い。皮肉なことに、ハイテク企業だからといって必ずしもネットワークド・オフィスであるとは限らないんです。

wsMyerson171026-2.jpg

オフィスというひとつの容れ物ではなく、スペースのネットワークを持つという考え方


ネットワークド・オフィスは企業空間の縮小と柔軟な空間の拡大という側面を持っています。いつでもどこでも仕事ができる状況が整い、大きなオフィスを人でいっぱいにする概念は時代遅れになりつつあります。その流れで大企業は一部の社員をコワーキングオフィスに配置するようになりました。建物を長期契約で借りて内装にお金をかける代わりに、柔軟に使えるスペースをたくさん用意するのです。

そうすると、例えば短期間のプロジェクトでは技術チームをコワーキングスペースに置き、終わったら別の場所に移動させるといった自由度の高いオフィスデザインが可能になります。オフィスというひとつの容れ物ではなく、スペースのネットワークを持つという考え方です。グーグルのキャンパスロンドンやSAPがシリコンバレーにオープンしたカフェ「HanaHaus」などに見られるように、自社オフィスを持っていても外部の共同スペースを利用する現在のトレンドは、こうした発想が軸にあると考えられます。

そもそもソーシャル・デモクラティック・オフィスは、より人間的な職場環境を提供し、コミュニティを創造するという高い理想を持っていました。しかしこれが希釈され、概念だけを使って平凡でつまらないオフィスが多く作り出され、低いレベルのミッションと低いサービス提供の企業キャンパスが増えてしまったという経緯があります。

コワーキングスペースの中には高度なサービスを提供しているものがあり、それらはソーシャル・デモクラティック・オフィスの欠点を補います。動線がたくみに設計され、素晴らしいコーヒーがあって、有能なコンシェルジュがいて、3Dプリンタのサービスを提供していたりする。さらには、テクノロジーのスタートアップやベンチャーキャピタルを集めるといった高度なミッションを持つものもあります。それはビジネスの推進力になり得ます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中