レゴ社の「原点」が記されていた1974年の手紙
「想像力が必要なのは子どもだけではない」――米名門大学で教えられている人生を切り拓く起業家精神の教え(2)
子どもたちに豊かな想像力を 1970年代のレゴには特段の説明書はなく、「想像力の大切さ」を訴える親宛ての手紙が同梱されることもあった Gajus-iStock.
スタンフォード大学の起業家育成のエキスパート、ティナ・シーリグは、このたび刊行された新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)で、1974年にレゴに添付されていたという親宛ての手紙を引用している。
それは、男の子も女の子も変わらず、想像力を羽ばたかせることが大切だと訴える手紙だった。レゴ社がその後「想像力の大切さ」を引っ込めてしまったことをシーリグは嘆くが、彼女はこのエピソードからこんな教訓を導き出す――「想像力が必要なのは子どもだけではない」。アマゾン創業者のジェフ・ベゾスもマーティン・ルーサー・キング牧師も、その偉業やビジョンを生み出したのは豊かな想像力だった。
以下、同書の「第2章 ビジョンを描く――世界があなたの舞台」から抜粋する。
私たちは日々の生活のなかで、それと知らないうちに自由な表現や想像力を殺しかねない「催促」をされています。塗り絵で色がついていないのと、色がついた手本があるのとの違い、おもちゃのレゴで、説明書が入っていないのと、あらかじめ城や軍艦の組み立て方の説明書が入っているのとの違いを考えてもらうといいでしょう。
一九七〇年代、レゴ社は特段の説明書はつけずに、カラフルな組立てブロックを販売していました。そこには、どこまでも想像力を羽ばたかせる、という意図がありました。ですが、その後、決まった形をつくるためのキットの販売を増やし、男児向けと女児向けを明確に分けるようになりました。一九七四年にレゴに添付された親宛ての手紙を引用しましょう。これは、レゴが「たったひとつの正解」と共に売られていなかった時代を思い起こさせるものとして、最近、ソーシャルメディアで出回っているものです。
親御さんたちへ
子どもたちはみな、何かをつくりたくてうずうずしています。男の子でも女の子でも、それはおなじです。大切なのは想像力であって、器用さではありません。頭に浮かんだものを、好きなように組み立てればいいのです。ベッドでもいいし、トラックでもいい。お人形の家でも宇宙船でもいい。人形の家が好きだという男の子は多いものです。宇宙船より人間らしいではありませんか。宇宙船の方が好きな女の子も大勢います。人形の家よりずっとわくわくするのです。何より大切なのは、子どもたちにふさわしい材料を渡して、好きなようにつくらせてあげることなのです。
その後、レゴ社は完成した模型の写真を外箱に印刷し、それ用にあらかじめつくられたキットを販売することで、この手紙に示された「想像力の大切さ」を引っ込めてしまいました。レゴ社のエンジニアが設計した立派な宇宙船や海賊船を目にした子どもたちは、想像力をはたらかせることなく、ただ説明書にしたがってブロックを組み立てるようになりました。こうしたやり方はレゴ社にとって大きな経営判断だったのかもしれませんが、多くの子どもたちにとっては想像力をふくらませる貴重な機会を失うことになり、大きな打撃になったといえるでしょう。
想像力が必要とされるのは、子どもの遊びにかぎった話ではありません。私たちは想像力を使って、自分自身の人生の見通しを立てます。可能性は何通りもあり、想像力が豊かであればそれだけ鮮やかなイメージを描くことができます。ところが想像力が乏しいと、過去の延長線上でしか考えることができず、他の人とおなじことをして、代わり映えのしないイメージを思い浮かべることしかできません。
確固たるイメージは、並外れた偉業を支える土台にもなります。アマゾンの創業者で最高経営責任者(CEO)ジェフ・ベゾスを見ればおわかりいただけるでしょう。ベゾスは一九九五年の創業当時から、世界規模の巨大企業を経営する姿をしっかりイメージしていました。アマゾンという社名は、世界一の流域面積を誇るアマゾン川と、ギリシャ神話に登場する伝説の女戦士の国アマゾネスにちなんだものです。小さな新興企業がいずれ堂々たる巨大企業に変貌を遂げることを見越して、慎重に選ばれた名前なのです。
マーティン・ルーサー・キング牧師の「私には夢がある」という有名な演説も、想像力の大切さを教えてくれます。人種間の平等の実現というキング牧師が描いたビジョンは、社会運動のうねりを起こすきっかけとなりました。「私の四人の幼子が肌の色ではなく、その個性で判断される国になる」ときを思い描き、そのビジョンを国民に語りかけたのです。