「人民元は急落しません!」で(逆に)元売りに走る中国人
中国人に投資好きが多いのはなぜか
中国人には投資好きが多い。書店のベストセラーコーナーには健康本と並んで投資指南書がずらり。テレビでも投資指南番組は人気コンテンツだ。友人と食事をしていても「どんな投資をしている?」「どこそこのマンションは今、いくらぐらい」といった投資ネタは鉄板だ。
「投資好き、ギャンブル好きは中国の国民性」などと解説する人もいるが、長年の金融規制が投資好きの人々を育成したというのが私の見立てだ。中国では長年にわたり銀行金利が規制されており、預金しても物価上昇率をはるかに下回る利子しか得られなかった。つまり、銀行預金すれば資産価値は目減りしてしまう。ならば資産を守るためには投資しかないではないか。
もちろん、よく分からないし勉強は面倒だからと投資を嫌がる人も少なくない。そうした人々にとって知識をあまり必要とせず、しかも安全かつ高収益なのが不動産だった。買えば必ず値上がりする時代が続くなか、月収を上回るレベルのローンを組むなど無理をしてでもマンションを買う人が続出した。ところが現在では不動産市場も低調で、不動産で儲けるにしても専門的知識が必要だ。
不動産に頼れなくなるなか、魅力を増しているのが海外投資となる。ある程度お金がある人にとって選択肢となるのが海外不動産の購入だ。海外不動産専門の仲介サイトが乱立しているほか、大都市では投資仲介の実店舗も増えている。
中国にいながらにして、外国の地名を眺めながらどこを買うべきか悩んでいる姿はなかなかに興味深い。日本の物件も人気で、中国人の知り合いから「**はどういう場所なの?」と質問されることも増えてきた。まとまった資金がない人ならば、米ドル建てや香港ドル建てのファンド、そして黄金が人気だという。
こうした一般市民による「元売り」がどれほどの規模なのかは不明だが、新華社記事によって政府が気をもむ程度の問題にはなっていることが明らかとなった。「人民元は下落しません」と官制メディアがアピールしても、「そんなメッセージを出すってのは本当は危ないということ」と裏を読む人々。元安トレンドを見るやいなや機敏に海外投資へと向かう人々。こうした庶民は中国共産党による規制によって育てられたものであり、その対処に苦しむのは因果応報というべきか。
中国政府は官制メディアによる啓蒙に加え、外貨両替規制やクレジットカードの海外キャッシング規制の徹底を通じて人々の動きをコントロールしようとしているが、「上に政策あらば、下に対策あり」とお国の裏をかくことに長けた中国の人々を管理することは容易ではないだろう。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。