最新記事

中国経済

「人民元は急落しません!」で(逆に)元売りに走る中国人

政府が説明すればするほど「元安はまだ続く」と裏を読む、投資好き一般市民たちの悲喜こもごも

2016年1月15日(金)06時15分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

人民元は売るべきか 長年の金融規制により投資好きになった中国人たちは、中国管制メディアの記事から真逆のイメージを受け取っている China Daily-REUTERS

「人民元レートの動揺、あなたは米ドル資産に換えますか?」

 これは2016年1月10日に中国官制通信社の新華社が配信した記事のタイトルだ。

「新年の第1週に人民元の対ドルレートが連日下落し、多くの市民は外貨資産購入の熱意を抱いたようです。大銀行では両替に訪れる人が増えました。ですが、一般家庭にとって米ドル資産の購入は人民元投資商品よりも本当に有利なのでしょうか?」

 記事はこう疑問を呈した上で、北京市在住のサラリーマン、唐さんの事例を紹介している。元安を見てすかさず3万ドルの米ドルファンドを購入した。利益率は年1.2%で、4.5%の人民元建て投資商品よりも低いが、2016年中に人民元レートが5%下がると考えれば十分に魅力的な商品という算段だ。

 そして、唐さんのような考えは大間違いで、人民元レート下落の余地はほとんど残されておらず、最終的には人民元投資が有利なのだ、という専門家のアドバイスが続いている。

 人民元投資の有利さを説く内容だが、なにせ中国ではメディアは「党の喉と舌」(中国共産党の代弁者)という存在だ。事実よりも政府のメッセージを伝えることが優先される。もっとも、読者の側もこの事情をよく理解しているだけに、メッセージの裏側を読み解くことに長けている。

 この記事も「一般庶民による草の根の元売りドル買いに政府は神経を尖らせているのだ」「人民元下落はないとこんなに必死で説明しているというのは、まだまだ下がる前兆ではないか」という、真逆のイメージを与えるものとなった。

「米国による元安批判」が問題だったのは今は昔

 昨年6月の中国株暴落は中国経済変調を強くイメージさせる事件となった。だがその後、株価以上に注目を集めていたのは人民元レートと政府の介入だ。人民元レートの問題といえば、かつては米国による元安批判を意味したが、最近では逆に元安トレンドが明確となり、中国政府がどれだけ元安を許容するかに注目が移っている。中国の外貨は2015年だけで5000億ドルもの減少を記録した。積極的な元買いドル売り介入を行った結果だ。

 中国経済の振興を考えれば一定レベルの元安を許容するべきだが、「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)に代表される海外投資路線、人民元の国際化という目標のためには元の価値を保持したほうが良いと中国政府は判断しているようだ。現在では電撃的な介入によって投機筋を牽制するという戦術がとられているが、元安観測を打ち消すことができるのかはまだまだ疑問だ。

 この元安観測は膨大な金額を動かす国際資本だけのものではない。平凡な一般市民にも共有されており、彼らは自分たちの行動で「今後も元安が続く」との見方に一票を投じている。そう、中国では今、海外投資がブームとなっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月の全国消費者物価、電気補助金などで2カ月連続

ビジネス

欧州新車販売、10月は前年比横ばい EV移行加速=

ビジネス

ドイツ経済、企業倒産と債務リスクが上昇=連銀報告書

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中