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日本の睡眠不足がイノベーション社会への変革を阻害する

2015年11月2日(月)16時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

 なお睡眠時間の絶対量では、日本の男女もそこそこ寝ているように見えるが(8時間近く)、これはハイティーンや60歳以上の人、さらに休日も含む全平均値だ。平日の年齢層別のデータをみると、様相は異なってくる。<図2>は、国内の年齢層別の平均睡眠時間、および6時間未満しか睡眠を取っていない人の割合の年齢カーブを描いたものだ。

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 40代後半の女性の睡眠時間が短くなっている。平日1日あたりの平均睡眠時間は396分(6時間36分)で、4人に1人が6時間寝ていない。ちょうど高校生くらいの子がいる年代なので、早朝の弁当作り等のために早起きを強いられるのだろう。また老親の介護が始まる時期でもあり、育児と介護の「ダブルケア」を負わされる女性も多いという(「ダブルケア、思春期と重なって 介護の負担、子どもにも影響」<朝日新聞、2015年8月4日掲載>)。この年代の女性の睡眠時間が短いのは、データでも裏付けられている。

 結婚・出産の高年齢化が進む中、育児と介護の時期が重なるようになってきている。上記のような「ダブルケア」の女性は、今後もますます増えていくだろう。公的な介護サービスの充実を図るなど、負担を緩和(分散)することが求められている。何でもかんでも家族に負担を負わせるような「私」依存型のシステムは今後維持できない。

 以上は中年女性に関わることだが、<図1>でみたように、日本の睡眠時間は総じて短い。勤勉な国民性の表れだろうが、休むことは仕事の能率を高める上でも有効だ。「ひらめき」という観点から見ても、睡眠や休息が重要な役割を果たすことが近年の研究で分かっている(「『休めない』日本人の生産性が著しく低い理由」<東洋経済オンライン、2015年10月31日掲載>)。

 あくせく働いてモノを作る大量生産の時代は終わり、革新的なアイデアやひらめきが必要な「高付加価値」産業へと主軸は移りつつある。睡眠不足を示す統計データは、日本がこうした時代の変化に対応できていないという警告でもある。

<資料:OECD『Balancing paid work, unpaid work and leisure』(2014年3月)
総務省『社会生活基本調査』(2011年)

[筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」、近著に『教育の使命と実態 データから見た教育社会学試論』(武蔵野大学出版会)。]

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